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人は、言葉からは逃れられない。

<6> 調査 / LOST MEMORY -PHANTASY STAR ONLINE 2- 二次創作小説

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前話 <5> 過去 / LOST MEMORY -PHANTASY STAR ONLINE 2- 二次創作小説 - HyogoKurumi.Scribble


<6> 調査

 ぼんやりと瞼が開いた。最初に見たものは白い空と、あれは天使の輪――いや、違った。ただの白い天井と円型の蛍光灯だった。
 重たい体を持ち上げるように起こしたエーテルは、曇った目をこすりながら周囲を見渡した。
 白い部屋に白いベッド、腕につながれた点滴、カーテンに囲まれた空間――知らない部屋だったが、ここがどこかの病室であることは理解できた。
 サイドテーブルに置かれていた自分の携帯ビジフォンを手にとった。
「……アイン、応答できる?」
 エーテルがしゃがれた声でそう言うと、画面にアインが現れた。
『良かった。意識が戻ったか』
「私、何日くらいこうしてた?」
『今日で二日目だ』
 アインは一度区切ってから言った。
『とりあえず、水かなにかを飲めよ。酷い声だぞ』
 二日も眠りについていたことで、体の損傷が相当激しかったことを察した。病気や怪我をしても、フォトンパワーの影響で促進された新陳代謝が、どんな大怪我でもたちまち治してしまう。それは光子多感症特有の、症例の一つであった。
『医者は驚いていたよ。発見時は酷い怪我だったが、ここへ運ばれた頃には、ほとんど治っていたようだからね』
 エーテルはアインの話を聞きながら、患者衣をめくって体をくまなく見た。どこにも怪我らしき痕は残っていない。それはいつものことだった。

 そして、サイドテーブルに再び手を伸ばし、水の入ったボトルを掴んだ。一口ずつ、徐々に飲み込む量を増やしていく。喉から体の奥に向かって流れていく水が、全身を潤わせてくれた。
「ふぅ……少し落ち着いたわ」
『さて、どこから話そうか。あの部屋で戦闘があったことは覚えているか?』
「覚えてるわ」
『敵を沈黙させた後、私との通信が途絶えたことは?』
「それも覚えてる。そっちではなにがあったの?」
『敵のデーターに、トラップが仕掛けられていたんだ。どうりで防壁が少なすぎると思ったよ。私もあれから、丸一日ほど自己修復に追われていたんだ。無事、再起動できた時には、きみは病院のベッドの上だった。肝心な時に役立てず、パートナーとして申し訳なく思う』
「いいのよ、そっちも無事でよかったわ。私が悪いのよ。私がもっと慎重にやってれば……」
 エーテルは、自分を責めすぎるところがあった。アインはそれを気にして、話を進めることにした。
エーテル、きみのほうでも、なにが起きたのか話してくれるか』
「アインとの通信が途絶えた後、あの女、急に自爆したのよ」
『自爆ということは……ふむ、どうやら彼らの言っていたことは、事実のようだな』
「彼ら?」
 その時、ポンッと電子音が鳴ってドアが開いた。
 カーテン越しなのでよくみえないが、誰かが部屋に入ってくることがわかった。
「誰っ!?」
 人影は二人。
 見舞いに自分を訪ねてくる友人や知人はいない。
 エーテルは反射的に腰に手を当てた。が、そこに銃はない。
「あら、目が覚めたのね? 開けるわよ」
 カーテンが開かれた。そこには若い男女が立っていた。その戦闘的な身なりから、二人がアークスであることがわかる。
「私はエコー、で、こっちはゼノ。よろしくね」
 にこやかに話しかけてくるエコーという女性。ゼノという名もどこかで聞いた名だった。どうやら敵ではないようだ。
「わたしはエーテル……エーテル・アークライト。貴方たちは?」
 すると、男の方が急に近づいたきた。
「へぇ~、噂には聞いてたけど、本当に綺麗さっぱり治るんだなぁ」
 首周りや腕など、素肌の露出した部分をじろじろと見回してくるゼノという男。思わず顔を赤らめてしまったエーテルは、とっさに肩まで布団を被りなおした。
「ちょっとゼノ! そんなにジロジロ見たら失礼でしょ!」
「ははっ。いや失礼。すごい怪我だったから、ついね」
エーテル、彼らが瓦礫の中からきみを救助してくれたんだよ』
「え? そうなの?」
 てっきりアインがレスキューを呼んでくれたものと思っていたが、よくよく考えてみればあの時、アインは通信できない状態だったのだ。自分が爆発に巻き込まれたことだって知らなかったはず。
「私たちはあのビルの近くで、ある事件の捜索活動をしていたの」
「アークス襲撃事件……噂で聞いたことないか? 俺たちはその事件をアークス連盟からの要請で追っているんだ」
 事件の噂は聞いたことがあった。それに、連盟から要請がかかる程となると、二人が熟練のアークスであり、信頼にたる人物であることがわかる。
「いきなりなんだけど、このリストをみてくれるかしら」
 A4サイズ程の大きさの用紙を三枚、手渡された。上から順々に目を通すが、ロックス……リュード……と、見知らぬ名前が顔写真付きで並んでいるリストだった。
 名前の横に、アークスなら誰もが持つ登録ナンバーが記されていた。
「この人達ってもしかして、アークス? アークスのリストなの?」
「その通りよ。なにか気づくことはないかしら?」
「…………」
 そう言われても、まだリストの詳細を知らされていない。ここに載っている人物たちは、なにをやったのか。これだけを見せられた自分に、なにを話せというのか。
 ふむ――。エーテルはチラと、ゼノとエコーの様子を探った。二人の視線は自分の反応を注視しているように感じ取れた。 ――観察? そう考えると、この限られた状態での、自分の回答に興味があるらしい。
「……リストの奴らをみて、なにか思い当たることはないか?」
 ゼノは壁に背を預けたままそう言った。念押すように言われたが、尋問を受けてるような圧迫感はなかった。がっしりと組まれた腕が、揺るがないなにかを訴えてくる。相当慎重で、密な捜査をしていることが感じ取れた。

 二人は命の恩人でもある。エーテルはそのルールを問わないまま、従うことにした。

 期待に応えて、一人一人丁寧にチェックした。そうして、三枚目に目を通した時だった。
「あ、この女……」
 エーテルは一人を指差した。覗き込んだエコーが言った。
「リサ……彼女がどうかしたの?」
「私をあの部屋で襲ってきた女よ」
 そう言うと、エコーの眉間がピクリと動いたように見えた。エーテルは一瞬を見逃さなかった。
「ほんとにリサで間違いないのね?」
「間違いないわ。私も自分の事件の調査であの部屋にいたんだけど、そこでこの女にわけもわからず襲われたの。理由を聞いたけど、楽しいからよって、そう狂ったように言っていた……最後には自爆したわ」
 ゼノとエコーは、怪訝な顔を浮かべて向き合った。そして頷いた。エーテルは目の前で堂々とアイコンタクトされてしまったことに、不快感を覚えた。
「……わかった、ありがとう」
 ゼノはそういうと、足早に部屋から出て行った。
 なにがわかったというのか。
エーテルさん。疲れているところありがとう。ご協力、感謝します」
 エコーもリストを畳み、帰り支度を始めた。
「あの、どういうことなの? 聞くだけ聞いてはいさよならって、これじゃわけがわからないわ。リサがあの部屋で私を襲った理由、貴方たち知ってるんじゃないの?」
 その言葉を後ろ背に受け止めたエコーは、立ち止まってから振り返った。
「……ごめんなさい。この事件、なるべく部外者は巻き込みたくないの。それに私たちだってまだなにもわかってないのよ。その質問にだって答えられないわ……それじゃ、ほんとにごめんなさい」
 二人は部屋から出て行った。連絡先すら聞けなかった。
 部外者と呼ばれたのは聞き捨てならなかったが、引き止める気力がでなかった。
「はぁ……なんで、ずっと黙ってたのよ」
 エーテルは携帯ビジフォンのアインを少し睨んだ。リサであることを分析したのはアインなのだから、口を挟む機会はいくらでもあったはず。会話で情報を聞き出すテクニックだって、アインのほうがずっと上手い。
『まだ、100%彼らを信用したわけじゃないからね。あっちもどうやら、手を組む気はなさそうだし』
「ねえ、さっきの話……アークス襲撃事件。私たちの事件とリンクしてると思う?」
『わからない……。ただ、いつも以上に、慎重になったほうがよさそうだ』
 エーテルはベッドは横になり、体を布団に預けた。
「……はぁ…………そうね……それも、そうだわ…………」
 ――ぐぅうぅ~~……
 腹が盛大に鳴った。
「はぁ、お腹空いた……ご飯食べたい…………」
 二人がいる時じゃなくて、よかったと思った。その安心感のせいか、エーテルはまたすぐに、眠ってしまった。

  ◆◇◆

――翌日、午後には退院することができた。その早すぎる回復に、主治医と看護婦はぽかんと口を開けていたが、彼女にとってそれは見慣れた光景でもあった。特になんの感想も抱かない。

 エーテルはアークスビルに停めたままだったバイクを回収してから帰宅した。
 彼女の自室には、壁中にワイヤーネットが張り巡らされている。そこに、重火器や工具類がぶら下がっている。エーテルはこの武器倉庫のような雰囲気が好きだった。いつの頃からか、ミリタリーグッズやその世界に、興味や憧れのような感情を持っていたせいだろう。
 柱に取り付けられたレバースイッチを上げ、部屋の電気をつけた。
「ただいま」
『おかえり、エーテル』 
 デスクビジフォンの画面に、ふわふわと漂うインフィニティマークが表示された。それがエーテルの相棒、アインである。

 ロストテクノロジーと呼ばれるほど旧時代のものではないが、AIといえば自立型が主流となっているこの時代、ボディを持たない彼のようなタイプは珍しい存在であった。単独行動を好むエーテルにとってアインは相性の良い相棒といえる。それに、全てのパワーを情報処理に回しているアインの解析能力は、現行のどのAIよりも優れていた。
『まだ食べるのかい?』
 席に着くなり、リンゴをかじりだしたエーテルをみてアインが言った。昼食はついさっき、病院の食堂で済ませてきたはずだ。
『きみのその食費の問題さえ解決できれば、もう少し安定して、余裕のある生活が送れるのだがね』
 アインはAIだが、エーテルの稼ぎは決して他人事ではなかった。彼は食事を必要としないが、AIである以上、電気を止められてしまえば動けなくなってしまう。
「仕方ないでしょ、大怪我して回復した後はものすごくお腹が減るんだから……それより、仕事の話っ」
 アインは画面の奥に引っ込んで、シップブランクの住居区画の映像を用意した。噴煙と瓦礫に包まれた住居ビルの一室。それは、レオナード夫婦の部屋だった。
『あの部屋は爆発のせいで、木っ端微塵に吹き飛んでしまった。残る手がかりは孤児院にいる夫婦の娘、ミライだ。進展の可能性は未知数だが、彼女を当たるべきだろう。事件発生時のことを、なにか覚えているかもしれない』
「同感よ。面会のアポは?」
『それが、ちょっと面倒なことになっている。念のため、孤児院の入所者名簿を調べてわかったんだが、ミライ・レオナードの名がないんだよ』
「どうして?」
『おかしいだろ? それで探ってみたところ、今は別の施設にいることがわかった』
「どこよ?」
 画面に表示された建物。それは見覚えのある建物だった。
『わかったかい? 光子エネルギー研究所だよ』
 リンゴをかじろうとしていた手が止まった。
「……ミライちゃん、光子多感症だったの?」
『そう考えるのが妥当だが……いや、そうなのだろう。裏付けをとりたかったが、身体データーを得ることができなかった。転院してるのは間違いないが……すまない、これ以上潜るにはセキリュティが深すぎるんだ。足跡をつけたくないから、ここまでにしておく。あとはそっちで、面会の段取りを組んでくれないか?』
「わかったわ」
 両親の死、孤児院、そして研究所……。まただ――まただ――。拭っても拭っても、そんな強引な推理がループしてしまう。この符合を、ただの偶然で片付けていいものだろうか。気にならないほうがおかしいとさえ思える。プロ探偵にあるまじき強引な推理だ。いや、それ以前の、酷い思い込み――でも、自分の境遇と、あまりに似すぎている……っ!
 もやもやとした心境は晴れなかったが、動かなければ"事"は進まない。 
 気を切り替えて、目の前の仕事に意識を集中させることにした。
 携帯ビジフォンを手に取り、アインが画面に表示した光子エネルギー研究所のコールナンバーを押した。 

 プルルルルル――プルルルルル――

『……はい、光子エネルギー研究所です』
「お忙しいところ失礼します。そちらに入所している光子多感症の方と面会する為に、必要な手続きを確認したいのですが」
『ご家族の方でしょうか?』
「いえ、違いますが?」
『あいにくですが、ご家族の方以外との面会は、現在はできなくなっております』 
「……え? いつからそうなったんですか?」
 自分が入所していた時には、そんな規則なかったはず。面倒な手続きさえ踏めば、誰でも面会申請ができたのだ。
『昨年の中頃からです。プライバシー法改正の関係で、面会は原則、ご家族のみとなりました。警察からの要請があった場合は例外ですが。詳細はホームページに』
 去年メディアで、光子多感症の人々に対する偏見や差別の目がどうとかで、子供がいじめにあったり、大人は就職率に響くなどの問題が話題になっていたことを思い出した。その時に制定された規則なのだろう。
「わかりました。どうもお忙しいところ、失礼しました」
 ピッと電話を切ったエーテルはそのポーズのまま、しばし沈黙。そして、考える――考える――最適で、尚且つ―――

 最高に楽しい方法を!

 エーテルは、ニヤリと不適な笑みを浮かべた。アインもその紐のような体をくるくると回転させた。二人とも、楽しげだ。
『……ふむ、それじゃあ仕方ないな』
「そうね。ふふっ」
 アインが画面に表示したのはネットの通販ショップだった。
 検索された商品リストには、白衣が並んでいる。

『さぁ、どれにする?』

 

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次話

 後日掲載

 


作品PV



小説情報 

 表紙と挿絵は絵師のnukaさんに描いていただきました!

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