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私はこの社会が省略した事柄を言語化している人です。

<7> 潜入 / LOST MEMORY -PHANTASY STAR ONLINE 2- 二次創作小説

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前話 <6> 調査 / LOST MEMORY -PHANTASY STAR ONLINE 2- 二次創作小説 -


<7> 潜入

「はい、みんなこっち向いて~」
 ゴリラもとい、婦長がゴリラのような手をパンパンと叩くと、室内で遊んでいた二十人程の子供たちが一斉に顔を向けた。
こちらは新しい先生の、アーテル・ライト先生で~す」
「みんな~、よろしくね~」
 子供たちに向かってにこやかに手を振る赤メガネをかけた白衣の若い女性子供が大好きで学生の頃から保育士に憧れており、また、フォトンパワーに関してさらなる実用技術の開発をも夢みている新卒生アーテル・ライト――という設定と偽名でここに潜入したエーテルである。黒髪長髪のかつらもかぶり、元の姿とは似ても似つかない。
 学歴や職歴は勿論、名前や住所も含め、政府のオンラインデータバンクに架空の人物を作り上げたのだ。もしバレたら重罪だが、そういった情報改竄はアインのお手の物だった。面接官にはさぞ魅力的な人材に見えたであろう。

 挨拶をすると、濁流のように迫ってきた子供の群れに、エーテルと婦長はあっという間に囲まれてしまった。
「どこから来たのー?」
「アーテル先生彼氏いるのー!?」
「あーちゃんって呼んでいい?」
 その勢いにも微動だにしないまま、婦長が言った。
「こらこら、みんな。そんなことしたらアーテル先生困っちゃうでしょ」
「あはは……。だ、大丈夫です。わたし子供好きですから」
「そう、慣れない内は大変だと思うけど、頑張ってね」
 婦長の視線が自分から離れたのをみて、エーテルは仕事の目に切り替えた。
 この中にレオナード夫婦の娘、ミライがいるはずだ。しかし、顔写真がないのでどの子なのかがわからない。橘はそのような写真を持ってなかったし、レオナード夫婦の部屋はもう瓦礫と化してしまったからだ。

 子供たちは一人ひとり胸元にネームプレートをつけていたが、このもみくちゃの中では判別できそうになかった。不自然な視線の動きからなにか勘付かれてもマズイので、この場は保育士のアーテルを演じることにした。

 職員室に戻ったエーテルは副院長から領収書の束を渡され、会計処理を任された。席に着いてからデスクビジフォンを起動し、オフィス会計ソフトに金額を入力する。その業務をこなしつつ入所者リストのデーターを検索するが、ここでも、ミライのデーターだけがどうしてもみつからない。
 デスクの脇においた携帯ビジフォンの中では勿論、アインも作業をしている。ワイヤレスで研究所のデータバンクをハックし、必要な情報を探ってくれているはずだ。
 アインはミライの居場所が判明次第、エーテルに合図を送る手筈となっていた。
 しかし、一向に知らせはこなかった。

  ◆◇◆

「――こちエーテル。アイン、聞こえる?」
『感度良好。状況は?』
「今はトイレよ。会計の仕事を任されちゃって職員室から動けないの。ミライちゃんの情報はどうなってるの?」
『それがな……聞いて驚かないでくれよ。ミライはたしかに、光子多感症患者として三週間ほどここに入所していたようだ』
「……入所していた? それで?」
『今はもう退所している』
「えぇー!?」
 自分のその声にはっとして口を閉じた。
『落ち着けよ、だから前置きしただろう』
「ど、どこに行ったのよ?」
『わからない。転院先の情報は極秘扱いになっていた。私には、何者かがミライのことを隠したがっているように思えるのだが、きみはどう思う?』
 プライバシー法の関係で個人情報の扱いが厳しくなったのはわかるが、転院先まで極秘にする必要があるのだろうか。
「……アインが憶測を言うなんて珍しいわね。でもその話乗ったわ、これじゃ行方不明よ……で、どうする?」
『ミライの転院先含め、極秘扱いのデーターを確保することが先決だと判断する。セキュリティが深いので、そちらで物理的に回収し、持ち帰ってほしい』
「わかったわ、どこにあるの?」
『研究所内の、院長室の端末の中だ。クルード博士の部屋だよ。その室内だけ無線通信が遮断されているし、セキュリティ突破は容易ではない。直接取りにいったほうがいい』
「……クルード?」
 どこかで聞いた名だった。思い出せない――思い出そうとしても、イメージが固まらない。
『知っているのか? まぁ、光子エネルギーの分野では高名な人物だから、きみが知っていても不思議ではないと思うが』
「そうね……うん。仕事に戻るわ。通信終わり」
 
 昼食休憩のチャイムが鳴った。自由に動ける時間は限られている。すみやかに院長の部屋に侵入して、データーをコピーしなければならない。
 会計処理を中断して席を立とうとした時だった。
「アーテル君、これからランチかね?」
 副院長だった。その手はなぜかエーテルの肩を揉んでいる。指が這いずる芋虫のように動いていた。
「は、はい……」
「よかったら一緒にどうかな? うん?」
 肩から手が離れたかと思えば、指先を背中にツー――ッと、滑らせてきた。ゾクリッとした感覚が背筋に走る。
「……いえ……、わたしはお弁当あるので、ロッカーに取りに行くとこなんです。すみません……(このセクハラオヤジ……っ! 殺す!)」
 そう言って席を立ち、逃げるように部屋を出たエーテル。廊下に出て携帯ビジフォンを見ると、アインからのメッセージが入っていた。
『進入ルートが決まった。説明するからまた女子トイレに入ってくれ。ただし今度は2階南側女子トイレの、3番目の部屋限定だ』
「どうして?」
『院長室の両開き扉には電子ロックがかかっている。これの解除は難しくないが、監視カメラが通路を捉えている。映像の差し替えはリスクが大きい――そこで、天井裏のダクトを使った進入ルートを提案する』
「あるわ。でも絶対、蜘蛛の巣だらけよぉ……」
『諦めてくれ』
「はぁ……わりに合わない仕事、受けちゃったわね」

  ◆◇◆

 ――その頃、アークス第七留置所の面会室では、エコーによる事情聴取が行われていた。
「だから俺じゃねーっての!」
「お、落ち着いて、スレイヴさん」
 バンッと机を叩いたのはスレイヴというガンマンアークス。現在、殺人容疑で勾留中。エコーが事情を聴こうと話を始めた途端、取り乱してしまったのだ。
「……私には貴方をここから出す権限はないの」
「はぁあぁ、すまない。わかってるよ……くそっ、なんでこんなことに
 スレイヴはずっと無罪を主張していた。なにかの間違いだ、と。こうして留置所に勾留されてから一週間が経とうとしていた。
 一向に釈放の兆しがみえないせいか、我慢の限界がきていたのだ。
「警察や公安にも散々聞かれたことだと思うけど、私にも事件当日のことを話してほしいの」
 そして、エコーは顔を近づけて言った。
「……私は仲間と、アークス連盟の要請である事件を内密に調査しているの。その事件に貴方が巻き込まれている可能性があるのよ」
「そ、そうなのか?」
「えぇ、だから協力して。本当に無実なら……事件が解決すればここから出られるわ」
 スレイヴはやや疲れた顔で頷いた。

 スレイヴの話の後、エコーは事件当日の資料を机に広げ、監視カメラの映像をプリントした写真を指差した。どこかの路地裏で、スレイヴが女性に銃を向けている場面が写っている。2枚目3枚目の写真には、女性が銃弾を受ける場面が写っている。
 撃ち殺されたのはミレイアという女性型キャストのアークスであった。
 エコーはミレイアを指差しながら言った。
「この人のことは知ってる?」
 スレイヴはミレイアの人物資料を見ながら言った。
「いや、知らないね」
 次にエコーは写真のスレイヴを指差しながら言った。
「……ここに映ってるこの人は、貴方じゃないのね?」 
 スレイヴは写真に写る自分を睨みつけながら言った。
「あぁそうだよ。俺そっくりだけど、そいつは俺じゃないんだ……」
 スレイヴの話によると、当日はナベリウスにて原生生物の調査活動をしていたが、突然、黒い塊のような霧に包まれ、直後に気絶。気がついたら森林の奥地にワープしていたという。
 事件発生時刻、自分は気絶していたか森林奥地を彷徨っていた時間帯で、そもそもアークスシップにいなかったようだ。
「じゃあ貴方の帰還報告などは誰がしたのかしら」
「わからない……まるで俺がもう一人いて、そいつがやったみたいなんだ……」
 そうしてスレイヴは頭を抱えてしまった。
 帰還報告やシップの返却手続きなど、本人確認を伴うチェックがクリアされている事を考えば、俄かには信じられない話であった。
 それでもエコーには、スレイヴが嘘を言ってるようには見えなかった。


  ◆◇◆  

 エーテルはなるべく物音を立てないよう慎重に換気口を外した。そして、そっと顔を入れて院長室の室内を見渡す。誰もいない。
 無人を確認したエーテルはその細い体を静かに着地させた。案の定、蜘蛛の巣や埃であちこち汚れてしまった。しかし、ここで叩き落とすわけにはいかない。侵入の痕跡を残してしまうからだ。トイレに戻るまでは、このままだ。
「アイン、目的地に着いたわ」
『室内にデスクビジフォンがあるはずだ。携帯ビジフォンと有線接続してくれ。三分でコピーしてみせる』
 院長の机にはデスク用の大型ビジフォンがあった。エーテルは外部端子接続部にケーブルを差す。あとはアインの仕事だ。
 室内を見渡すと、専門書物が並ぶ本棚に資料棚、応接用の高級なソファに木造テーブルなどがあり、あとはよくわからない置物や賞状などが飾られていた。
 一見した限り別段変わったところはなさそうだった。ついでに引き出しなども調べたかったが、万一、なにかのセンサーに触れたら面倒なのでやめておいた。
 部屋にはブラインドの下ろされた窓と、廊下に出る両開きのドアがあるのみ。ここは二階だが、万一発見された場合、脱出には窓を使うことになるだろう。
あと二分』
 一分がやけに長く感じられた。エーテルはアイモニターを持ってくるんだったと後悔した。身体検査で発見された時のリスクを考えて持ってこなかったわけだが。
 盗聴器でも仕掛けたいところだが無線が遮断されてることを考えると、数日後に回収に来る必要があるし、やはり発見された時のリスクを考えると現段階では不要だと思えた。
 いま携帯ビジフォン内にいるアインも、一時的にコピーされたアイン自身のデーターの一部であり、本体はエーテルの部屋の端末の中にいる。
『残り一分』
 アインがそう言った直後、両扉の鍵が開けられる音がした。とっさに院長デスクの裏に身を隠したエーテルは聞き耳を立てる。
 何者かの足音が室内に入ってきた。
「……ん、なんだこれは?」
 男の声がなにかを見つけた。その声の位置から察して、携帯ビジフォンであることは明白だった。
 その瞬時――男の背後へ回り込んだエーテルの手刀が首の根元に直撃。白衣の男を一瞬で気絶させたのだった。
「あっぶなー……」
 白目をむいて膝から落ちた男の名札には〝クルード〟と書かれていた。
『どうした?』
「クルードが入ってきた。でも手刀で気絶させたわ」
『……まさか殺してないだろうな?』
 手刀も当たりどころ次第では、相手を殺せてしまう技だ。
「大丈夫よ。気絶させただけ。姿も見られていない。念のため幻覚ガスを吸わせておくわ」
 クォーツドラゴンから採取した幻覚剤で作ったエーテル手製の混乱ガスである。希少で高価なものだが、これで気絶時の記憶は不鮮明になるはずだ。
『よし、コピー完了だ。解析は持ち帰ってから行う』
「わかった。こっちもアーテルに戻るわ」
 その後、そ知らぬ顔で業務を勤めた。

◆◇◆

 ――夜、退勤して自室に戻ったエーテルはまず、携帯ビジフォンをデスクビジフォンに繋いだ。
『では解析を始める。こっちの設備ならすぐに終わる』
「任せるわ。私はシャワーでも」
『その間には終わるだろう』
 ここからはアインの仕事だ。エーテルはシャワーの後に着替え、コーヒーをつくった。マグカップはずっと愛用しているものを手に取った。数年前、アークス採用試験の受験勉強を始めた頃に、スノゥが買ってくれたものだった。
『……終わったぞ。画面に展開する』
 アインの声が聞こえて、カップを手に自室に戻った。
 画面上には無数のデーターが表示されていた。
『……どうやらこれは、光子多感症として研究所に入所した全ての患者データーが詰まっているようだ』 
 そのアインの話を耳に入れつつ、ミライの名で検索したところ、一件のデーターをみつけた。
「あったわ」
 ミライが入所した後の履歴を目で追った。
「……レポートの最後にあるこの、〝適合者〟の記述、なんのことだと思う?」
『さぁな。〝適合者〟のキーワードで検索をかけているが、十数名ほどの退所者に同じ記述があるようだ』
「もしかして、その人達は適合したから退所になったってことかしら?」
『これだけみるとそう思えてしまうな。ただ速断は禁物だろう』
 エーテルはミライのデーターを頭から読み直した。
 そして、ある記述が目に留まった。

 〝両親の死因は頸部切断による出血と外傷性ショック死。切断面から検出されたフォトンの残留物を分析した結果、患者の高威力、ザン系テクニックの直撃を受けたものと――〟

 要約すると、両親を殺したのは、患者の暴走したフォトンテクニックだと書いてある。

「……なにこれ」

 ――ドクン

 エーテルは他の患者のデーターにも目を通した。その内のいくつかには同様の記述があった。

 〝詳細は患者の将来性と光子多感症の社会印象を考慮し、通り魔事件として発表――〟
 〝交通事故死として発表――〟

 ――ドクン ドクン……

 エーテルは少しずつ動悸が激しくなるのを感じていた。
『どうした?』
 そのアインの言葉は耳に入らないまま、エーテルは自分の名前を打ち込んだ。しかし、

 〝検索結果 0件〟

 そんなはずはなかった。自分も幼い頃、一時は研究所に入所していたのだ。
「……アイン、出しなさい」
エーテル、落ち着いてくれ。きみがいまなにを調べようとしているのか、それはわかるが――』
「いいから出しなさい! 私のデーターよ!」
 エーテルは手のひらで机をバンと叩いた。
 アインが隠している。
 そうに違いないと思った。

 ――余計なお世話よ!
 ――私は、真実を知りたいの!

 その言葉はぶつけはしなかった。ただ、画面のアインを強く睨んだ。

『だから、落ち着いてくれ』
「落ち着いてるでしょ!」
タイプミスだよ。ETER……ETHERのHが抜けているよ』
 アインの言うとおりだった。
 自分のタイプミスだった。
「……ごめん」
『きみのデーターはちゃんとある。私が表示しよう』
 画面にはすぐ、エーテルが患者だった頃のデーターが表示された。
 顔写真は研究所で最後に撮影した十歳の頃のものだろう。
 彼女は震える手で、入所経緯の項目に目を走らせた。

 〝両親の死因は感電死。患者の高威力ゾンデ系テクニックの直撃を受けたものと――〟
 〝尚、詳細は交通事故死として――〟

  ◆◇◆  

 その日、エーテルの住むシップは夕方から雨が降った。
 天候制御装置により人工的に降り注ぐ雨が、容赦なく窓を打ちつける。
 その降り注ぐ雨の中、留置所での事情聴取を終えたエコーは、傘を差して帰路についていた。

 ―――ピリリッピリリッ

 携帯ビジフォンを手に取る。ゼノからだった。
『おう、俺だ。そっちはどうだった?』
「ゼノの考えてる通りだと思う。リサの件といい……この事件、同じ人物が二人存在していたとしか思えないわ」   

 

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次話

 後日掲載

 


作品PV



小説情報 

 表紙と挿絵は絵師のnukaさんに描いていただきました!

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