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私はこの社会が省略した事柄を言語化している人です。

<8> 手帳 / LOST MEMORY -PHANTASY STAR ONLINE 2- 二次創作小説

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前話 <7> 潜入 / LOST MEMORY -PHANTASY STAR ONLINE 2- 二次創作小説 - 


<8> 手帳

 100年ほど前――フォトンエネルギー技術を応用した家電製品が一般家庭に普及しだした頃から、突然、周囲の物が燃えたり、凍ったり、斬れたりといった怪現象が起こるようになった。政府が設立した特殊機関が調査した末、現象発生時はその周囲に赤ん坊がよくいたことがことがわかった。そして、大気中のフォトンに過剰反応してしまうDNAの存在が確認された。
 その後、『光子多感症』(フォトンたかんしょう)と名づけられたその症例者たちは、政府施設に隔離されることとなった。この判断の是非を巡っては、種族保護団体などが中心となって、連日、大激論が交わされたが、症例者の大半が子供であり、感情が高ぶるとフォトンエネルギーをコントロールできず、周囲の人間や物を破壊してしまう恐れがあるという制御困難なその性質の正体が知識として広まってゆくにつれ、次第に反対の声はなくなった。やがて、治療と称された隔離の必然性を求める声のほうが、大きくなった。


 全ては、シップを守る為であった。船体に大穴を開けられでもしたら大惨事となるのだ。
 このように、光子多感症の歴史は、危険物も同然の扱いを受けて始まったといっても過言ではない。
 今では光子多感症をもって生まれても、課題は多々あるものの、健常者と同じノーマルな日常生活を送れる為の社会システムや保障制度は整っているといえる。
 彼らの存在のお陰でフォトンエネルギーテクノロジーは飛躍的に向上したし、不治の病とされてきた病気の治療薬だっていくつも開発されている。生活も便利になり、豊かになった。
 長い年月をかけて、社会は共存の道を見い出すことができたのだ。
 ただ、偏見の目はいつの時代も、拭えなかった。
「もし、なにかあった時、怖い――」
 それが世間の本音だった。

  ◆◇◆

『――きみも調べたことがあるだろうが、これが私のほうで調べた光子多感症の歴史、その概要だ』
 先のアインの話は誰でも知っている歴史の話であった。
 エーテルは黙ったまま聞いた。
『光子多感症者の暴走事故は、ある時から全く表沙汰にならなくなっている。恐らく社会に与える印象が考慮され、事故が起きてもメディアに流れないよう情報操作が行われていたのだろう。持ち帰った患者のデーターにあった、あの記述のようにな』
 アインは話を続けた。
『わかってると思うが、この依頼はここでクローズするべきだ。依頼人への終了報告は私のほうで作成しよう、いいな?』
 探偵稼業をしていると、知ってはいけない真実に触れてしまう時がある。そういう時は、深く関わってはいけない。大型組織の情報操作が絡んでいる時は特にそうだ。首を突っ込みすぎて、消されてしまった同業者の話なんて、いくらでもあるのだから。
『……エーテル、聞いているのか?』
「あ、うん。わかってるわ。それでお願い……」
『大丈夫か? 辛そうだが」
「ちょっと休む。平気だから。ごめん……」
 椅子から静かに立ち上がったエーテルは、そのままベッドに横になった。
 感情が昂ったり動揺したり、今のように不安定になった時、エーテルはよくそうして休んでいた。

 そのまま眠りに落ちたエーテルは夢をみた。三年前のあの日――夜、メディカルセンターから連絡があり、そこでスノゥの亡骸を見た時の記憶だった。自分は、スノゥの頭とボディをみて、発狂した後に気を失ったらしい。

 夢の中に出てきた両親の記憶、それはスノゥとの思い出だった。本当の両親の姿がなかったことに、疑問はなかった。実の両親と一緒にいたのは、まだ幼児の頃だったのだから、思い出は一つもない。他人に等しい存在だ。
 それでもエーテルは、夢の中で動揺していた。実の両親を殺してしまったのが自分のせいだというのに、自分はそのことについて、なにも感じていない。全く動揺していない〝自分自身〟のことが、不気味で怖くて、たまらなかった。ただ、スノゥの死を知った時は、その場で腕輪が壊れるほど異常なフォトンパワーを暴走させてしまった。それが今回の場合、壊れてもいなければ、フォトン過剰検出のアラートも鳴らなかった。 
 早朝に目を覚ましたエーテルは、壊れていない腕輪をみて、これを自身の成長だと思うことにした。
 そう思うことで、今の気持ちに決着をつけることが出来そうだった。
 
 午後になってから、エーテルは橘の下を訪ね、依頼の終了報告をした。レオナード夫婦の部屋は、ダーカー襲撃時の大規模戦闘で崩壊しており探索が不可能であること。事件現場にも調査進展に繋がるようなものは見つけられなかったこと。娘のミライは現在、光子エネルギー研究所にいる為に自分はコンタクトできないこと。
 それらの内容を簡潔にまとめ、これ以上は調査のしようがないことを伝えた。
「力になれず、すみません……」
 エーテルは頭を下げた。これでも調査に要した経費など報酬は請求しなければならない。
「いえ、エーテルさん。本当にありがとうございました」
 橘は少しもがっかりした顔を見せず、満足した笑みでエーテルに感謝を述べた。そして、請求書にサインした。
 その笑顔と紙切れを受け取ったエーテルは、淡々と別れを述べて橘宅を後にした。
 これ以上この件と関わるべきではないし、橘とも、二度と会わない方がいいからだ。もし情報操作に荒っぽい組織が関わっているとしたら、依頼人の身にも、危険が及ぶかもしれない。

  ◆◇◆

『お疲れ、エーテル。これでこの件はクローズだ』
 フォトンバイクでハイウェイを走るエーテルにアインが声をかけた。
 そのねぎらいの言葉に、彼女は呆れて言い返した。
「はぁ……まだ終わってないでしょ、ミライちゃんはどこに行ったっていうのよ」
『そんな依頼は受けていないだろ? 調査したところで金にならないぞ』
「わかってるわよ! わかってるけど……」
『私とコンビを組んだ時、きみはこう言ったはずだ。〝もし私が感情的になったら止めてくれ〟と。だから言おう。この件はもうクローズだ』
ぐぬぬ……」
 アインの言うとおりだった。ミライのことは気になるが、この稼業は私情に左右されるべき世界ではないし、それができる状況でもない。橘に請求した報酬も。ほとんど調査費用の経費だけで、今月も生活家計は火の車である。
『早速だが、アルバイトの仕事をサーチした。前回と同じ警備スタッフだ。アイドルのライブ会場のな。日給もいい』
「また、あれなの……」
 エーテルは愕然とした。
『仕方ないだろう。日雇い日払いで、そこそこの報酬で、きみの経歴で確実に雇ってくれそうなところとなると、警備関係の仕事は狙い目となる』
 クーナという人気アイドルのライブイベントだった。警備スタッフはアイドル以上に目立たないよう、着ぐるみを着用することになる。
「警備の仕事は別に嫌じゃないの。鳥の着ぐるみを着なくちゃいけないのが嫌なのよ。暑いし……」
『ちなみに、今回は朝から夜まで、三日連続で働ける人の募集だ』
「み、三日も……」
 気が滅入りそうになった。アークスの仕事でダーカーや原生生物と命をかけた戦いをしていた方が遥かにマシであった。
 ただ、今はそっちの仕事で、すぐ金になりそうな依頼がないらしい。
 エーテルは気持ちを切り替えるつもりで、行きつけのバーに入った。

  ◆◇◆

 カランコロンとドアベルが鳴り、客たちの視線が向けられた。エーテルは男たちの舐めるような視線を受けながらセピア色の店内を歩き進み、カウンター奥の席に座った。
「はぁ……バーボン、ロックで」
 言ったと同時にグラスが出てきた。たまにしか注文しない酒なのに、まるでマスターはわかっていたかのようだ。
「……よくわかったわね」
「その顔をされている時はいつも、それを楽しんでいますから」
「ふふっ、覚えられちゃったわね」
 エーテルは強い酒を飲む。ただ何杯も飲んだりはしない。グラス一杯だけを時間をかけてじっくり飲む。それは、スノゥの飲み方と同じだった。
 手帳を取り出したエーテルは今回の依頼の件をメモに残した。といっても、レポートや報告書のように細かく書き綴るのではなく、キーワードを箇条書きのようにメモしておくだけだ。これが後で役に立つことがある。最も、そういった情報処理はアインの担当なのだが、エーテル自主的にやっていた。
「その席でそうしていると、スノゥさんを思い出します」
「え?」
 スノゥがこの店の常連で、マスターと顔なじみだったことはエーテルも知っていた。
「スノゥさんもよくそこで、手帳を開いてましたから」
 マスターはそう、にこやかに言った。
 エーテルはまた昔のことを思い出した――

 ――それはエーテルが十一歳の頃の、何気ない日常の記憶だった。
「ねえ、スノゥはどうして紙の手帳を使っているの? 携帯ビジフォンを使えばいいじゃない」
 難しいことはまだわからなかったが、スノゥが元人間で、今はキャストとして生きていることは理解していた。だからこその疑問だったのかもしれない。スノゥは携帯ビジフォンを使わず、わざわざ手帳を使っていたのだ。子供ながらにその行動は不思議でたまらなかった。そもそも、キャストとしての演算機能を使えば、人間よりも正確な記憶で、素早い計算処理もできるはず。メモ帳を使う必要はどこにもないはずだった。
「自分で書いた手帳の方が考えやすいんだ。勉強だってノートにペンを使うだろ? それと同じだ」
 ソファに座っていたスノゥは手帳から頭の向きをかえず、面倒そうに答えた。施設暮らしが長かったせいか、好奇心旺盛だったエーテルは毎日山のような質問をスノゥにぶつけていた。この時のそれも、その内の一つにすぎなかった。
「ふ~ん、なんとなくわかるけどさっ」
 エーテルはスノゥの簡潔な回答に話を重ねることができず、そこで追求をやめた。
 ただあの頃は、メモに残すという動作自体が無駄に思えてならなかった。

 今ならスノゥの気持ちがわかる。デジタルはいつも同じ形のものしか表示できない。でも、ペンで書けば自由だ。好きなように書ける世界、それが発想や閃きを助けてくれる。それは、デジタルにはできない働きだった。アークスになる為の勉強中にそれが理解できた。だから探偵職を開業できた時、その祝いに、仕事用の手帳を買うことにしたのだ。それからもずっと、メモ程度のことなら携帯ビジフォンではなくこの手帳を使うことにしている。勿論、父であり師匠でもあるスノゥを倣ったスタイルでもあった。だからマスターの言葉で、少し嬉しくなれた。

 グラスの酒をくいっと一口だけ流し込む。酒の味が一段、美味しくなった気がした。

 すると、不意に〝クルード〟の文字が脳裏に浮かんだ。なぜ今更、あの男の名が頭を過るのか、その理由がエーテルにもわからない。ただ、じわじわと鮮明になっていくそのイメージは、手帳に書かれていた文字であることを思い出した。その手帳は自分のものではなく、スノゥの手帳だった。

 その時、エーテルの体に強烈な衝撃が走ったのだ。なにか大事なことを見落としている――だからクルードを調べろ――と、まるで脳が訴えてきているようだった。

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  ◆◇◆

 意識が戻ってから、そこがナベリウス森林であることを理解するのにしばしの時間を要した。
 スノゥは、森の中をふらふらとした様子で歩き進んでいた。
(……俺は……なぜここにいる? なぜ、こんなところを歩いている……)
 自分が森にいることは認識できる。しかし、体の自由がきかなかった。立ち止まりたくても足が、体が、勝手に動いてしまう。
 だんだんと、ぼやけていた記憶や意識がはっきりとしてきた。――そうだ、自分はあの時、捕らえられてしまったのだ。そして〝奴〟に、注射器のようなものでなにかを注入されてしまったのだ。
 (そうか、これでウィックのやつも……)
 世界がまるで血に染まったかのように、視界に映る全てのものが赤みを帯びて見えた。誰でもいいので殺したいと思った。今、勝手に動いている自分がそんな邪悪な破壊衝動に駆られていることは感覚的に理解できた。恐らく、そう認識できているのは頭部の中にわずかに残っている人間の脳の部分であるとスノゥは考えた。どうやらキャストとしてのボディやシステムは、奴が体内に注入したなにかの影響で、制御不能に陥っているらしい。
(くそっ……どうすれば……)
 習慣がそうさせるのか、それとも、彼女がターゲットなのだろうか。それは判別できなかったが、自分の足が自宅に向かっていることも理解できた。このまま帰宅すれば、自分は間違いなくエーテルを惨殺してしまうだろう。ボディの主導権をなんとかして取り戻す必要があった。しかし、その術はなさそうだった。意識を集中して全身を動かそうとしても、その力が込められないのだ。まるで滑るように自分の感覚が、意識から零れ落ちてしまう。
 ただ、体の一箇所だけに意識を集中すれば、なんとかそこだけは動かせそうだった。
 とりあえず足をもつれさせて自分を転ばせたはいいが、崖から転がり落ちてしまった。それが不運を招いた。打ち所がまずかったのか、転がり落ちている途中に冷却装置を故障させてしまったらしい。この場合、早急な手当てが行われなければ、熱による内部の溶解や損傷を防ぐ為に機能停止するのがシステム上の正常動作だった。しかしその気配はなく、立ち上がった自分のボディはまたヨタヨタと前進を始めた。修理をする気はないようだ。
 センサーが熱量の増加を知らせた。このままでは脳がやられるだろう。ただ脳が死んでも、このボディは機能停止せずに動き続けてしまうかもしれない。
 どうなるか全く予測がつかなかった。
 そう考えていられる時間も限られていた。
 ただ、一つだけわかることがあった。
 それはもうすぐ、自分が死ぬということだった。

 スノゥは渾身の力を込め、右腕を腰の後ろに向かって、捻るようにして持っていった。そして、サブウェポンとして携帯していたフォトン高周波ブレードを握り締めた。また強引に腕を体の前に戻し、ブレードの音を聞いた。あまり使っていなかったが、切れ味は問題ないだろう。
(……俺は、いい父親だっただろうか……)
 ためらいはなかった。こうするしか術はないのだから。次の瞬間、視界の天地が転がった。思っていた通りの光景だった。
 次第に閉じていく世界を見つめながら、スノゥはエーテルのことを想った。
(……あぁ、笑顔の作り方……教えて……やれなかった……な…………)
 スノゥが最後に見たもの、それはナベリウスの森に咲いた一輪の花だった。
 黄色い花びらを咲かせた、綺麗な花だった。

 

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小説情報 

 表紙と挿絵は絵師のnukaさんに描いていただきました!

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