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言葉は嘘をつきません

<9> 本音 / LOST MEMORY -PHANTASY STAR ONLINE 2- 二次創作小説

前話 <8> 潜入 / LOST MEMORY -PHANTASY STAR ONLINE 2- 二次創作小説 - 


<9> 本音

 バーを後にしたエーテルは急くように自室へ戻った。そして、デスクの引き出しの奥底からスノゥの手帳を取り出し、あるページを確認した。
「……やっぱり。ほら、みて」

 それは手帳の最後ページだった。
 引き出しにしまう前に一度、パラパラとめくって読んだことがあった。その時の一秒にも満たない記憶の映像を、エーテルは思い出したのだ。
『〝クルード〟……〝博士、院長〟……たしかにそう書いてあるが』
 それだけだった。
「アイン、こいつを調べるわよ」
『かまわないが……まさかその手帳に書いてあるから怪しいとか言うんじゃないだろうな』
 黒幕だとか犯人だとか、そういうわかりやすいキーワードも添えて書かれていれば話は別かもしれないが、
「そうよ。悪い?」
『なぁ、エーテル……きみの師であり父にあたるスノゥが優秀だったことはわかるが、いくらなんでも強引すぎないか?』
「いいから、彼の経歴を出して。今回は私が考えるわ」
『はいよ』
 アインが画面の奥に引っ込むと、直後に無数の文字が表示された。どうやらどこかにハッキングをかけているらしい。
 そして、すぐにクルードの顔写真や経歴情報が表示された。
『おまちどーさま』
「変な言葉知ってるわね」
 エーテルはそう言いながら画面に目を走らせた。
「……十年前に院長に就任って…………あいつ今いくつなの?」
『今年で三十九歳になるようだが』
「そんな年齢には見えなかったわ。いってても二十五歳くらい……」
『ふむ……いや、ちょっと待て。クルードは十六年前に交通事故にあった際の手術で、肉体の大部分をキャスト化している。頭部をヒューマンタイプのものにしたということでは? それなら老化による筋肉のたるみなどは起こらないだろう』
 恐らくスノゥが受けた手術と同じ類のものだと考えられた。スノゥも事故で肉体を失い、脳だけを残しキャストとして生きていた。
「キャスト化……その事故の詳細、どこかに残ってないかしら?」
『検索しているんだが、古すぎてどこにも残ってなさそうだな。詳細もここには載ってない』
 それを聞いたエーテルはクスリとした笑みを浮かべながら言った。
「ねぇ、アイン」
『なんだ』
「キャストっていつから手刀で気絶する面白機能がついたわけ?」
『手刀? …………あぁ、そういえばきみはたしかあの時……うん? どういうことだ?』
 エーテルは席から立つと、マガジンに弾を込め始めた。
『おい……まさか、乗り込む気じゃないだろうな?』

 
 その、まさかであった――

 

   ◆◇◆

 『エーテル! 待つんだ! 頼むから止まってくれ!』

「却下よアイン! 今夜中にケリをつけるわ!」
 フォトンバイクで夜のハイウェイを疾走するエーテル
 アインは止めようとするが、彼女は全く聞く耳を持ってはくれなかった。 
『たしかにクルードはどこか怪しい。なにか握っていると考えたくもなる。しかし、きみの話は憶測だらけだ。仮にきみの言うとおり、クルードがキャストじゃなかったとして、それとミライや光子多感症患者の誘拐、アークス襲撃事件がどう絡むっていうんだ』
「クルードは光子多感症患者を集めてなにかしてる、アークス襲撃事件は事件を嗅ぎつけた邪魔者を消してる、これが私の考えよ」
『つまり、あのリサの件もそうだと言いたいんだな?』
「そうよ。わかってるじゃない」
『ほとんどきみの勘じゃないか。私はもうすこし確証を集めてくれと言ってるんだ。前回の潜入捜査の時はいくらでも言い訳がたったが、今回もし捕まればただではすまないぞ』
「でも推測通りなら、私たちはいつ襲われてもおかしくないのよ。この危機的状況は早急に打開するべきじゃない?」
 アインからみてエーテルの話は飛躍もいいところだった。

 院長室で浴びせた手刀の手ごたえは間違いなく生身の感触だった。しかし記録によると、クルードはほぼ全身をキャスト化手術しているはずである。だから、クルードは嘘をついており、よってこの一連の事件の首謀者であり、そう疑える理由はスノゥの手帳に名前があったからだと言う。
 エーテルは決して説明上手なほうではないとしても、ほぼ彼女の勘であることがわかる。
 だが、アインにそれを否定する根拠を出せるわけでもなかった。
 それに、本当に一連の事件に繋がりがあるとすれば、自分たちは随分と関わってしまっている。またリサのような刺客が突然現れて襲われる可能性は十分に考えられるし、その時、一度向こうは失敗しているのだから、きっとリサと同等かそれ以上の敵が二体か三体、差し向けられるだろう。そうなれば勝ち目はない。
 この推測が成り立つなら今のところ一番怪しいのは光子エネルギー研究所……つまり院長のクルードである。極秘データーを管理していた張本人だ。首謀者でなかったとしても事件関係者である可能性は高い。
 ならばこの際、奴を尋問して背後関係をはっきりさせるのもアリだと思えた。眠れぬ夜を過ごすのは御免だし、無関係だとわかれば解放してやればいいのだ。口止めの為にそれなりに脅す必要はあるだろうが。
『……わかった、いいだろう。私はパートナーだ。ついていこう……ただいいか、私は賛同したわけじゃないからな?』
「ふふっ、それでいいのよ。アインは」
 アインが最後まで自分に折れず、クールでいてくれた。エーテルは心底、アインという相棒を頼もしく思った。

 アクセルを回して速度を上げた。
 テールランプの尾で車両の合間を縫いながら、夜の街を走り抜けていった。

 

  ◆◇◆

 光子エネルギー研究所への侵入ルートは屋上からとした。自分は一身上の都合で早期退職したことになっているので、もう職員のアーテルとしてゲートを通ることはでできない。
 近くのビルから飛び降りたエーテルフォトンウェアを使い降下、そして研究所の屋上へ着地した。
「こちらエーテル、現場到着。これより潜入するわ」
『感度良好。了解した。気をつけろよ』
 研究所の正門をみると、ゲートが閉じられていた。時間的にも職員のほとんどは退社しているはずだが、当直番は何人か残っているはずである。その存在とセキュリティには注意しなければならない。
 エーテルは屋上で口をあけていた通気ダクトに細い体をねじ込み、そこから建物内に侵入した。天井の通気口を開け、廊下に着地したエーテルは階段付近に掲示されていたプレート確認。最上階である三階であることを確認した。予定通りのポイントだ。
 博士の部屋に行くには、また二階の女子トイレを目指す必要がある。
 アイモニターを装着し、警報装置に警戒しながら二階へと下りた。そして、女子トイレが見えた時だった。
 トイレの手前の通路から懐中電灯の明かりと足音が聞こえた。このまま進むと鉢合わせをしてしまう距離だった。とっさに身を隠そうとしたエーテルだったが、凹凸の無い通路ではどこにも隠れられそうなところがなく、すぐ傍の部屋のドアには鍵がかかっていた。
(やばば…!)
 容赦なく足音が迫る。接触は避けられそうにない。
 やむを得ず、エーテルは腰のサイドボケットから取り出した玉を通路の向こうに投げつけた。
 それは囮に使うデコイだった。ホログラム表示されたその人物に気をとられたのは、副院長だった。
「……アーテルくんか? なぜきみがここに?」 
「副院長ぉ……、わたし、副院長のことがぁ……」
 口先にあてた小指と潤んだ瞳で副院長に擦り寄るアーテル――のデコイ。勿論、副院長はアークスが携帯するデコイのことなど知る由も無い。
 通常はナベリウスでエネミーとの戦闘で使うものだが、対人相手にも使うことができる。ただ、その悩ましいアーテルの言動からして、どうやら随分前に設定した〝誘惑モード〟のまま投げてしまったようだ。
 声にならない悲鳴をあげるエーテルだったが、お陰で易々と背後をとることができた。エーテルは舌なめずりをした副院長に痛恨の手刀を浴びせたのだった。
 ほぼ私怨の一撃ではあったが、副院長という立場からみて、クルードの協力者である可能性も考えられた。早々に退場してもらうことに越したことはなかったのだ。
『どうした、なにかあったのか?』
「なんでもない。ちょっとね」
 そう返事しつつ、副院長に混乱ガスをたっぷりと吸わせた。
『戦闘はなるべく避けてくれよ』
 そしてエーテルは無事、二階の女子トイレに辿り着くことができた。

 

   ◆◇◆

 その頃、研究所裏手にある森林公園の草むらの中に、二人のアークスがいた。
「ゼノ、ほんとうにやるの?」
「怖いのか? 無理して着いて来なくてもいいんだぞ」

 ゼノはエコーにそう言いながらしゃがみこんでマンホールの蓋を開けた。

 調べに間違いがなければ、この先にある地下水道は光子エネルギー研究所の、今は使われていない地下エリアに繋がっているはずである。
「そうじゃないの……捕まったらたぶん、わたしたち免許剥奪よ?」
「わかってるよ。でも誰かがやらなくちゃならねぇ、そうだろ?」
 アークス襲撃事件を追っていたゼノとエコーは、独自の調査により光子エネルギー研究所が怪しいと踏んでいた。この件で逮捕されたアークスの何人かが研究所で診察を受けていたことや、院長のクルードが過去にクローン研究に携わっていたことから、内偵を進めていたのだ。
 しかし、相手が政府関連機関であることが問題だった。調査対象として報告して、もし本当にクロだった場合、わざわざ〝次の標的〟の存在を敵に教えるようなものだった。アークス連盟だって政府と一心同体のようなものなのだから。

 ゼノはマグライトで奥の方を照らした。地下水道の側道まで、問題なく降りられそうだった。
「来ないんだったら蓋を戻しておいてくれ。そんじゃーな」
 カンカンと、はしごを降りていったゼノの姿はすぐに見えなくなった。
 急に静かになって、エコーは何気なく周囲をキョロリと見回した。
 昆虫や動物の鳴き声が妙に喧しく聞こえた。
 ゼノは、本当に一人で行ってしまった。
 ただ待っているだけは嫌だった。
「はぁ……今日がアークス最後の仕事になるかもしれないのね……」
 エコーは意を決してはしごを掴んだ。
「待ってゼノ、私も行く!」
「おう、足元気をつけろよ!」
 口にくわえられたマグライトの光がエコーの下半身を照射した。
「きゃあ!……こっち照らさないでよ!」
 とっさに手で押さえてガードする。
「え? なに?」
「もうっ! なんでもないから!」

 ……そんなこんなで、無事にはしごを降りた二人は研究所の方角へ足を進めた。


 とにかく酷い臭いだった。中央を流れる水路には、絶えず汚物と溶け合った黒い水が流れていく。側道はぬるぬると滑るし、もし足を滑らせでもしたら悲惨なことになるだろう。
「うわぁ……距離はどれくらいなの?」
 エコーは早くここから出たそうだった。
「100メートルくらいのはずだが……ん?」
 マグライトの明かりの先に一瞬、なにかの影が過った。ネズミか、いや、もっとでかくて、長い生き物だった。
 反射的にガンスラッシュを構えて戦闘態勢をとったゼノ。エコーも一瞬遅れてロッドを構えた。
 水路の流れに逆らって、なにかがこちらの方に向かってきた。その形状から、最初は数匹のヘビだと思えたのだが、その後方にはさらに大きな塊がついてきていた――そいつは、おもむろに胴体を起こした。
 下半身はヘビで、上半身は甲殻類のようなはさみを持つ形状をしているが、口からは十本程の触手を生やしている。体長は四~五メートルといったところか。
「おいおい、逃げたペットが突然変異でもしたっていうのか?」
 ゼノは対象を見上げながら、そう冗談を言ったが、エコーはうねる触手が嫌で軽い鳥肌に包まれていた。こんなペットはいない。
「これもしかして……ダーカー?」
 頭部や肩などにあった一部の鋭利な形状から、ダーカーを連想することができた。胸部にある赤いレンズはコアだろうか。
「ふっ……こいつの飼い主に聞けばいいさ」
 ゼノはなにかを確信したようだった。
 エコーは戸惑いながらもロッドを握る手に力を込めた。

 正体不明の怪物が目を細めて二人を睨んだ。
 そして触手をゆっくりと四方に広げた後、今までに聞いたことのないような、甲高い雄叫びを上げた。

 

  ◆◇◆

 そこはいくつもの巨大な水槽や装置が並ぶ地下の研究所だった。
 無数に這うケーブルやパイプが床や天井を埋め尽くし、あちこちからは不気味な色をした蒸気が噴出している。
『あれは……事故だったはずだ!』
 そんな場所で、スノゥはハンドガンを震える手で構えていた。その銃口は、白衣の男に向けられていた。
 男はメガネをあげると、笑みを浮かべながら答えた。
「〝適合者〟の肉体が必要だったのだよ。計画はあの頃から始まっていたのだ」

 十五年前――ナベリウスの森林で、ある悲惨な事故が起きた。
 レーダーマップを伝える衛星の故障により、一つのチームが現在位置をロスト、そして遭難した。
 数日後、捜査隊によりメンバーは遺体となって発見された。野生生物に食い荒らされたのか、全員、一目で死亡と確認できるほど損傷した状態だったが、その内の一人は脳が無事だったので蘇生の見込みがあった。

 事故から一ヵ月後、病室で目を覚ました〝彼〟は驚いた。視界には計器類のメーターやテキストが並び、自分の体は白いボディを着込んでいたのだ。
「まさか……キャストの体か?」
 そういう医療技術が確立されつつあることは知っていたが、せいぜい腕や足といった、体の四肢に使われる程度のものだと思っていた。
 知らぬ間に全身を改造されたことに対するショックよりも、純粋な驚きの方が大きかった。キャストの体は人間だった時と同様に、自分の思い通りに動いてくれた。ボディは大型だったが、不便は全く感じられなかった。
 医師の話によると、治療は不可能と思われたが、脳が無事だったことで、ドナーの登録情報に沿って今回の大改造手術が行われたらしい。
「ドナー登録?」
「お忘れかもしれませんが、貴方はアークス登録時にドナー登録をされています。事故死した場合は医療技術の発展に役立てるよう、この肉体を捧げる、と。貴方のケースでは、脳は無事でしたが肉体の損壊が激しかった為、死亡と同等と見なす判断されたのです」
 医者にそう言われて、たしかアークスの免許証を取りに行った時に、そんな書類に何かのついでにサインしたことを思い出した。
 ただ、自分が死んだ時の状況は上手く思い出せなかった。チームメイトとナベリウス森林で依頼の探索中、突然レーダーマップが使い物にならなくなって、森を彷徨い、皆で励ましあいながら生き延びようとしていたことが、断片的に思い出せるだけだった。
「一応、貴方には好きな時に〝ボディを返却できる権利〟があります」
 彼は一晩だけ考え、そして、生きる道を選んだ――

「――本当は、きみにはあのまま死んでいてほしかったんだけどね。でもあの頃の医療界は医療実績の関係で、ドナー登録していた人には強引な判断でもキャスト化手術を施すことになっていたのさ。僕が欲しかったのは女性のフォースだった。メンバーに一人いただろう? 名前は忘れてしまったけど、彼女は光子多感症だったんだ」
 白衣の男は黙ったままのスノゥをみて話を続けた。
「……キミのいたチームは腕の立つアークスばかりだったからね。弱ったところを〝襲わせた〟のさ」
 断片的だが、あの時、突如ダーカーの群れに襲われたことを思い出した。体力が極限までに削られていた自分たちには、どうすることもできなかった。
「そうか、光子多感症の人間を集める為に、次々と……」
 スノゥは全てを理解した。自分が巻き込まれた事故も、エーテルの事故も、全ては目の前のこの男が仕掛けたことだったのだ!
「お前の目的はなんだ!? 答えろ……クルード!!!」
「くっくっく……それはね…………」
 不適な笑みを浮かべながら、クルードは近くの水槽にそっと手を当てた。そして撫でる様に指先を滑らせた。
 水槽の中には、無数のチューブに繋がれた子供や大人たちが、眠るようにして浮かんでいた。   

 

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小説情報 

 表紙と挿絵は絵師のnukaさんに描いていただきました!

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