私が中学生の頃、自営で飲食店のコックを勤める父が、胆石をとる手術で入院した。
手術は成功し、順調に回復して仕事にも復帰したのだが、入院生活によって体力が落ちたせいで、店を早めに閉める日が続いた。売り上げも落ちた。
そんな時に、我が家に現れたのがあの『省電王』である。
(´Д`)ハァ… 思い出しただけで溜息がでる。
これは二十年ほど前に起きた詐欺商法事件である。アイディックという会社が、個人事業主をターゲットにして、節電効果のない「省電王」という装置に高額な値をつけて、全国で売りまくったのだ。
後に知ったのだが、我が家もこの事件に巻き込まれていたらしい。省電王のお値段は100万円だったとか。
当時、母は父に何度も怪しいと言ったそうだが、
「お前は黙っとれ!」
「こんな暑い中、何度も来てもらってるのに!」
等と叱られ、口を挟むことを封じられてしまい、ほぼ父の独断で契約が進められたという。
二十歳くらいの時にその話を聞いて、私は思った。
馬鹿じゃねーの、と。
普通そんなもんに騙されるかよ、と。
親父はやっぱりアホだ、と。
私は「自分はそんな目に遭わない、すぐに見抜けるから」と、何の根拠もなくそう思い込んでいた。
今回はそんな私が騙された時の話と、相手を信じてしまった脳の状態について話そうと思う。
読むだけで偽ビジネスに騙されない感覚を習得できるので、ぜひここから先も読んでほしい。
騙された
私が騙されたと認識している体験がある。
それはNPOの理事に誘われた時と、とある医療ジャーナリストから秘書業務に誘われた時だ。
騙されたと認識している、と書いたことには理由がある。
この件では「相手が騙してきた」とは書けないのだ。
なぜなら、NPO代表も医療ジャーナリストも、私を騙すつもりはなかったのではないか?と思えるからである。
それでも私は、自分が騙されたと認識しており、騙されたと認識しても間違いではないと思っている。
つまり、「相手は騙していない」と「私は騙された」の両方が成立している体験だと言いたいのだ。
NPO代表は、NPOをみんなでやろうと誘い、あれこれとNPO事業のノウハウを語っておきながら、NPOをやる気はなく、ノウハウだと思えた話も、本を読んで知ったことをまるで自分の経験則であるかのように喋っていただけだった。ノープランであり、言うなれば、プロット無しで小説を書いていたようなものである。
医療ジャーナリストはプロを自称し、当事者の事情にも精通しているような発信を繰り返していたが、実は当事者の境遇や事情についてはなにも知らなかったし、関心も持っていなかったのである。職場環境も当時の部下に丸投げで、事前にやりとりした内容は何も整っていなかった。
二人は共通して、自分自身の経験ではないことでも、自分がそれに精通しており、理解者であるかのように話すタイプの人だった。
平常時の感覚なら「あぁ、これは知らないのに知ってるつもりになっているタイプだなぁ」と気づけたかもしれない。
しかし、当時の私はそういう、「怪しい」を察知する感覚が働かない状態になっていた。
時折、二人の言動から不可解に感じることはあっても、それは彼がこういう状況だからとか、私も説明していなかったからとか、頭の中で自分の思い込みが成立する言い訳を作ってしまい、最後の最後まで「相手は自分より賢くてわかっている人」だと認識してしまっていたのだ。
怪しさを察知できなった理由
なぜ「怪しい」と思えなかったのか?
私は日常の中で、その脳の働き方に気づくことができた。
その時の体験を言語化したのがこの記事である。
これも時間がある人は先に読んでほしい。
人は多くの物事を感覚的に判断する。それが平常時の状態だ。
しかしある条件が重なると、人は感覚的にではなく、思考を基準に判断するようになる。
感覚的判断が優位となっている平常時なら「怪しい」と思える内容の話でも、思考が優位となった状態だと、脳は「なるほど」と認識してしまうのだ。
その条件というのが、「自分が知らない知識や言葉の話を聞き続けること」である。
私が思考優位に陥った流れ
NPOの時も医療ジャーナリストの時も、私は仕事に困っていた状況だった。だから、相手から持ちかけられた話を積極的に聞く姿勢でいた。
あと、私は過去に受けたWAISの知能検査で、自分の知識力がとても低いことは知っていたから、わからないと思えたことはちゃんと聞き返す心構えを持っていた。
実際、私は相手の話をしっかりと聞いて、わからないと思えたことも、その都度、聞き返していた。
しかし、肝心なことを言及できなかった。
それが「怪しい」と思える部分である。
NPOの代表は、いろんな活動や事業の成功話をよく話す人だった。どんな話題でも、そういう感じですぐに答えを出せる人だった。
私にとっては知らないことばかりだったが、話し言葉で説明してくれたせいか、どんな話も「なるほど」と思えたし、「勉強になる」と思っていた。
しかし自分たちがこれから取り組む活動については、ただの行き当たりばったりだった。「池袋でフェスがしたい、そこで会員を募集する」という話の時に、もっとしつこく聞いて話を掘り下げて、今後の行動に関する代表の理解度を計っておくべきだった。
でもその時にはもう、「彼は私より詳しい人」という関係性が前提になってしまっていた。頭の中にスタートからゴールまでのプロットがあるというレベルで、私は彼のことを理解者だと思っていた。だから、話を先へ進めることを優先してしまったのだ。
医療ジャーナリストの時もそうだ。最初に違和感を覚えたのが面接の時だった。「手順化された仕事ならできます」と、自分が約束できる仕事の条件を言った時に、「デジタルを使っています」と言いながら”私にiPadの画面をチラ見せするという行動”を、もっと変に思うべきだった。
その時はまだ「無理そうならちゃんと断らなきゃ」という気持ちがあったから、「え? いや、ちょっと待ってください」とか、言って話を止めることもできたはず。
でも、できなかった。それは「医療ジャーナリストだから発達障害にも言及しているから当事者の事情にも詳しい人のはず」という思い込み以前に、私はDMでのやりとりや食事の席の雑談で、この人から「自分の知らない話」をたくさん聞かされていたのである。NPOの代表に対して思ったことと同様に、「この人の話は勉強になる」とさえ思っていた。
あと、2人は私が知らない単語や、カタカナ語もよく使うタイプの人だった。
だから私はこの2人と会話をする時は、勉強のつもりで、思考力を働かせながら話を聞くことが当たり前になっていた。
これが本記事で問題としている「思考優位の状態」である。
さっきも言ったが、人はこの状態に陥ると、通常は「怪しい」と思える話を聞いても、それを察知する感覚が弱まっている為、「なるほど」と思ってしまうのだ。
だから、必要な質問を交えながら冷静に話を聞いているつもりでも、あれよあれよという間に相手の話に乗せられてしまい、でたらめな内容の契約にサインをしてしまうのである。
思考優位に陥りやすい状況
思考優位に陥ってしまうと感覚的に判断をする力が弱まり、普通はわかることがわからなくなったり、相手の言いなりになってしまう。
それは自分にとっても不健全だし、相手にとっても困る状態だ。ちゃんとした取引だったのであれば、互いにとってのチャンスを逃す要因にもなりかねない。
そういう脳の状態に陥らない為にも、思考優位に陥りやすい会話の特徴を押さえておこう。
こんな会話をする相手に注意!
- カタカナ語など、わかりにくい言い方を多用してくる人
- 自分の知らない業界ニュースばかりを話す人
- 口数が多い人、よく喋る相手
上記はNPO代表と医療ジャーナリストとの会話の特徴、そのものである。
この3つを主な警戒対象として抑えた上で、私が一番重要だと思っていることを言う。
それは、口頭会話そのものを警戒するべきという考え方だ。
これは、人の声には感情を煽る力があり、会話だけでも不安が煽られて吊り橋効果が生じてしまうという気づきを言語化した記事である。
想像してみてほしい。
多動タイプでひたすら喋りまくるビジネスマン、多用されるカタカナ語、自分の知らない業界ニュース、そして、自分にとって利益がある楽しい会話の商談。
貴方はきっと、ビジネスの話だからと、慎重に耳を傾けていることだろう。
理解が追い付ていないと思えたところは話を止めて聞き返すだろうし、変だな?と思えたことは、突っ込んで掘り下げようとするだろう。
その時点で、もう貴方は堕ちている。
詐欺に遭った人の言葉を思い出してほしい。「本当は怪しいと思ったんだ」など、商談の内容以前に、そもそも怪しさに気づけなかったことを悔いてないだろうか?
相手の話をしっかり聞く姿勢をとってしまった時点で、必要な言及ができなかった私のパターンと同じ状態、ということだ。
ではここから、相手に騙されない為に必要な「対偽ビジネス防御スキル」の話をしよう。
対偽ビジネス防御スキル
自分が知らないことばかり話してくる人は見限ってヨシ
カタカナ語や業界ニュースが会話に混ざること自体は、ビジネスのやりとりにおいてある程度は仕方ない。でもそういう話は聞いているだけで思考優位になってしまう。自分が知らないことばかり話して来る人は、「自分のことしか考えていない人」と判断して見限ろう。
これは、しつこい宗教ビジネスの勧誘や、アムウェイなど連鎖商法ビジネスの話を聞いている時は特に意識したい感覚である。自分たちが属する活動の用語やニュースを話しまくって、相手の脳を思考優位に堕とすことが彼らの手口である。
自分が相手の話を聞くターンは「感覚」で聞け
それでも話を聞くことになった場合は、思考優位にならない為にも、相手の話を聞くターンの時は、感覚的な判断を重視して話を聞こう。
わからない部分を聞き返したり、相手の意図を無理に汲み取る必要はない。
大事なことは、自分が自然体のままで理解できる言葉で会話ができるかどうか、そこだけに着目しよう。
それができない相手を取引関係にもってしまうと、いつも思考を働かせることになるので、コミュニケーションの面で酷く苦労するし、曖昧な内容に了承する関係が形成されやすい。
口数が多い人には要注意だ
会話で生じる吊り橋効果の記事でも話した通り、口数が多い人には要注意だ。自分の言葉で相手の感情を煽って誘因していることに無自覚で、いわば相手の感情を釣って契約数を稼いでいるタイプなのだが、自分にはビジネスの才があると思い込んでいるタイプが潜んでいる。
考察力は浅く、頭にプロットもないのに、自分は人より賢くて正しいと思っている。行き当たりばったりで行動しているので、その取引ではほぼ間違いなく相手の都合に振り回されることになる。
Twitterでツイートしまくっているビジネス系や起業家系のアカウントからも、この特徴が窺える。要注意だ。
文章で説明させる
人の声には感情を煽る力がある為、口頭会話でのやりとりは感情に流されやすく、本意ではない契約に了承してしまう可能性がある。でも、文章ならそういう心理現象の影響を比較的受けずに済む。
だから取引を持ちかけられたら、まず相手の考えを、文章で説明させてみよう。
行き当たりばったりな上に自分の話をわかってもらいたがっている迷惑な相手ほど、文章での説明を拒否して、リアルで会おうとか、電話で話そうとか、私の目を見て話を聞いてとか言ってくる。
文章で説明しない=できない=その話は思い付き程度のことで塾考していないと判断できるし、間違いなく「俺が法律だ!」系のブラックタイプだから、着信拒否してもいい。
これは言語認識の違いについて言及した、下記記事に登場する「感想型」とも関連した話なので、記事を指しておく。
「怪しい」を察知しよう
ビジネスから不確定要素を完全排除することは不可能だ。必ずどこかに手探りの課題が残るし、冒険しなければいけない段階があるだろう。
それでも、話に乗せられて契約をしてしまうとか、相手の能力を見誤って関係をもってしまうといった、通常なら気がつけた怪しさを見落としてしまった故の選択は避けたいものだ。
特に発達障害や精神障害の人たちは、メディアやビジネスの声もかかりやすいが、その声の中には自分のことしか考えていない輩がいることを忘れないでほしい。
実際、被害者ビジネスの的にされやすい。
それは生き辛い境遇故に、常時、考えながら生きている為、無自覚のまま思考優位な状態に陥っている人が多いからである。人の話を積極的に「怪しい!」と思う力が弱まっているのだ。
これからの生き辛い界隈では、そのようなビジネスが問題視され、長い論争期間に突入すると私は思っている。
いずれにせよ、生き辛い界隈を中心としたビジネスはこれから活性化することが目に見えている。この界隈と関りがある人は怪しい声に騙されないよう、この記事に記した防御スキルを役立ててほしい。