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ブログ開始日 2015年12月31日
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発達障害考察ブログ HYOGOKURUMI.Scribble

言葉は嘘をつきません

03:犬を捕まえてきて 1/僕と彼女のカーニバル(加筆修正版)

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前:02:プロローグ 2/僕と彼女のカーニバル(加筆修正版)

 

03:犬を捕まえてきて 1

 一学期最後の土曜の夜。自室のベッドで横になりながらアプリゲームをしているとスマホがメッセージを受信した。僕にメールを送ってくる存在は神楽しかいない。ただ彼女の方からメールを送ってきたのはこれが初めてだった。
 今は夜の22時。日課となったおやすみメールだろうと思いながらメッセージアプリを開く。でもそうではなかった。『あなたは私の彼氏』とただ一言、そんな意味深長な内容だった。
 僕は神楽とのこれまでのやり取りを回想しつつ『そうだよ』と返した。この問いに秘められた彼女の意図はわからないけどそこを否定する理由はなかった。
 二通目はすぐに来た。『私のことを大切におもっている』
 僕はまた『そうだよ』と返事した。彼氏とは彼女のことを大切に想うものだ。
 三通目も早かった。『明日私の家に来て 13時』
 僕は『わかった』と返事した。

 その後またすぐに四通目が届いた。内容はマンション名を含む住所だった。名前は知っているけど行ったことのない町名だった。ネットで調べてみると僕の家からだと電車を使って40分程かかりそうだった。
 文末には『おやすみ』の一言が添えられていた。僕も『おやすみ』と返事した。

 翌日の午後。僕は神楽の住むマンションに向かった。自宅から駅まで自転車で約10分。そこから電車で四駅。さらに駅から歩くこと15分。迷うことなく予定通りに着くことが出来た。
 そびえたつ赤レンガの外壁。幾何学的な装飾の施されたアーチ門。平たく切り揃えられた青々しい草壁の道。一階部分はガラス張りで、ホテルのロビーのような共有スペースに、アンティークな椅子やテーブルがいくつか並べられている。天井にはシャンデリア。大理石の床には赤絨毯が見えた。
 マンションの玄関口。木製扉は音もなく左右にスライドして壁の中に消え、ガラスの自動ドアと円筒状のインターホンパネルが僕を出迎えた。神楽から事前に番号は聞いていたから、僕はインターホンのタッチパネルに指を当てて部屋番号を押そうとした。けど少し考えてまず到着したことをメールで知らせることにした。今の神楽宅内の状況がわからないからだ。もしかしたらクラスメイトの男子が尋ねてきたことで神楽が家族から茶化されるかもしれない。そのことをネタにされ、僕は彼女からありえない要求をされてしまうかもしれない。僕は神楽の家族構成なんて知らないけどそれは避けるべきだと考えた。
 神楽からの返事はすぐに来た。
『いまおりていくから待ってて』
 僕はその場で待つことにした。

 ほどなくして神楽が通路の奥から現れた。相変わらずの無表情。だけど私服姿の彼女を見たのは初めてだった。無地の白いチュニックに下は足首までの黒いレギンス。つま先に小さな薔薇の飾りを乗せたサンダル。これから出かける格好には見えない。部屋着だろう。

 神楽は開いた自動ドアを通って僕の前に立った。そして呟くような声量で言った。
「……来てくれた」
 心の中の声が出てしまったのだろうか。どこから出た言葉なのかが気になったが、僕からの質問を想定した上での一言だったとは思えないので、ただの挨拶ということにしておいた。
「……あぁ来たぞ。今日はなんの用だ。デートって感じじゃなさそうだな」
 彼女は鞄すら持っていない。
 すると神楽は何も言わずに僕の上着の袖をつまんでひっぱった。外に連れ出された僕は大人しく従った。歩き着いた先はマンションの敷地内にある公園だった。

 公園では砂場や遊具で子供たちが無邪気に遊び、その傍では保護者たちがお喋りをしていた。柵の向こう側には駐車場が広がっている。ここのマンションの住民が使っているのだろう。
 僕らは園内にある東屋のような屋根付きベンチに座った。ここならなにを話しても誰の耳にも残らない、僕を家には入れたくない、だから神楽はこの場所まで移動した、そう思えた。

 さて、ベンチに落ち着いたはいいが神楽は遊んでいる子供たちの方をじっと見ているだけだ。いや、何も見ていないのかもしれないが。僕が正面に座っていること、そもそも僕をここまでひっぱってきたこと、まさか忘れたわけではあるまいな。
 神楽の白い肌、猫のように丸い瞳、真っ直ぐな黒い髪、薄い唇――それらの測られたようなパーツが、古風な人形(ドール)のような妖しさを彼女に纏わせる。
 5分くらい経っただろうか。ようやく神楽が口を開いた。
「犬を捕まえてきてほしいの」
 僕は一応、聞き返した。〝犬〟と聞こえたような気がして。
「いぬ? 犬と言ったのか?」
「そう」

 …………話は終わったようだ。
 メールでのやり取りのように、僕も淡々と言葉を返した。

「どうして捕まえてきてほしいんだ?」
「必要だから」
「なんの為に必要なんだ?」
「私の為に」
「僕が捕まえてくることに意味はあるのか?」
「あなたが捕まえてきた犬がいいの」
「期限は?」
「今日中」

 今日中……犬一匹くらいなら……いや、それよりも…………

「…………」

 僕は沈黙してしまった。勿論、彼氏の務めとして彼女の願いは聞いてやるもんだ。それはわかっている。それでも、保険はかけておかなければいけない――

「……確認する。僕は捕まえてくるだけでいいんだな?」
「そう。捕まえたら、私に渡してくれればいい」
「わかった。捕まえたらここへ戻ってくる」

 神楽は無言のまま立ち上がってマンションの方に戻っていった。僕も早速クエスト攻略に取り掛かることにした。

 

 

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