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当ブログの発達障害に関する記述は当事者の体験に基づく考察です。ご了承の上でお読みください。

発達障害考察ブログ HYOGOKURUMI.Scribble

言葉は嘘をつきません

2019年5月3日 1,000,000PV達成

04:犬を捕まえてきて 2/僕と彼女のカーニバル(加筆修正版)

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前:03:犬を捕まえてきて 1/僕と彼女のカーニバル(加筆修正版)

 

04:犬を捕まえてきて 2

 マンションを後にした僕は、必要なものを買い揃える為に近所にあった100円ショップに入った。地図アプリで検索して見つけた店だ。 

 神楽は犬種や体格、必要な部位、犬のスペックや状態について具体的な指定をしなかった。柴犬、チワワ、秋田犬、ブルドッグ……なんでもいいということにしておこう。ただ、飼われている犬は事件化する可能性があるので避けることにした。やはりいなくなっても誰も気に留めない野良犬がいい。捕獲作業を行う場所も、人目につかないところがいいだろう。

 一応、保健所に保護された犬を譲渡してもらう方法も調べたが、審査や手続きやらで日数がかかるようだった。まぁ、僕が犬を入手したことは赤の他人にも知られたくないので、この方法は論外なんだけど。

 

 アイテムと武器を買い揃えて店を出た僕は早速、野良犬を探すことにした。足はなんとなく河原の土手の方を向いている。さっき地図アプリで100円ショップを探した時に見つけた川の方角だ。徒歩三十分ってとこだろう。子供の頃、僕は野良犬に追いかけられたことがあり、それが当時住んでいた町の川の近くだった。河原に引き寄せられるのはその体験のせいだと思う。

 これから僕は犬を殺す。殺しに行く。襲われて仕方なく殺めるのではなく、自分から殺めに行く。初めての体験だ。罪悪感や良心の呵責といった感情は今のところ無反応。自分がそういう奴だということは知っている。

 犬を蹴り飛ばす自分……ハンマーで犬の脳天を叩き割る自分……ナイフで犬の腹を引き裂く自分……ノコギリで犬の四肢を解体する自分……一度もやったことはないのに、僕の脳はまるで日課のような感覚で認識している。

 

 

   ◇ ◇

 

 朝、僕はいつも闇の世界で目を覚ます。ぼんやり浮かぶ亀裂に瞳を重ね合わせる。そうすると、皆が現実世界だと認識しているこの空間が僕にも見えるようになる。だから僕にとってこの世界は、別の世界。

 これはどうやら僕だけの意識に起きている現象らしい。他の人は目を覚ました時、初めからこの現実世界にいるようなのだ。誰かにそう教えられたわけではない。一般教養を習得する中で理解したことだ。

 このことを誰かに話したことはない。話したところでいいことは起きない。僕にはそれがなんとなくわかる。でも、神楽になら話してもいいかなと思っている。彼女も毎朝、僕と同じ世界を見ているのかもしれない。話してみたい、聞いてみたい、知りたい……この好奇心の先に沈黙している感情がある。もしかしたらそれは、僕が未だに体感したことのない、あの感情なのかもしれない――

 

 住宅街を抜けて河原の土手の階段を上がると、視界に大きな川が広がった。川沿いには多目的公園や野球のグラウンドもある。対岸にはサイクリングロードも。地元の人たちが利用しているのだろう。遠くの方まで見渡したが、この河原はかなり整備されているようだった。僕は困ってしまった。子供の頃、犬に追いかけられた河原は草が生い茂っていた。そのイメージで考えてしまった。でもここには野良犬が潜めそうな草ぼうぼうの原っぱが見当たらない。いやそもそもこれだけ人間の数が多いと、野良犬は寄り付かないのではないか。

 

 僕は第2案に移ることにして雑木林の方に足を向けた。これも地図アプリで見つけた場所だった。神楽の住むこの町と隣町の間には雑木林が広がっているのだ。車道も通っているようだが、地図アプリのストリートビューを見た限りでは、アスファルトがボロボロであまり整備されていないようだった。その荒廃した印象が、野良犬の存在を匂わせる。

 河原の土手をしばらく歩いた後、地図アプリを参考にしたポイントで階段を下り、また住宅街に入った。そして住宅の数が減っていく様を気に留めながら歩くこと20分、道路が途切れた。ここから先はもう、雑木林が壁となって広がっている。

 ざっと見渡したが、人が足を踏み入れる為の道はなさそうだった。僕は草が少ないところを選んで林の中に侵入した。

 スマホをみると15時を回ったところだった。ここまでの道中、犬を何匹かみかけたが、いずれも散歩中か犬小屋にいるかで、一目で飼われているペットであることがわかった。捨て犬は見かけなかった。

 この雑木林を探索しながら歩くと、反対側に出るまでに2時間から3時間程度かかると見積もった。それでも犬を捕まえられなかった場合、第3案を実行しようと決めた。僕の家の近所に庭で放し飼いの犬がいる。きちんと躾がなされていないのか、昼夜を問わずに吠えまくる。その家は夫に先立たれた中年女性が一人で暮らしている。いつも夜にならないと帰ってこない。第3案の話、おわり。以前にもその犬を殺してやろうと思ったことがあり、家主の帰宅時間はその時に調べた情報だ。

 

 僕は林の中を歩き進む。河原の土手を歩いている最中にネットで調べたことだが、野犬はどこにでも出没するらしく、特に囲いのない広い場所を好むらしい。さっきの河原や、こういう雑木林のようなエリアもそれに当てはまる。僕もこういう場所は好きだ。静かで、広くて、何よりも人がいない。 

 しばらく歩いて、地図アプリで現在位置と周辺の情報を確認しようと思った。記憶違いでなければ、もうすぐ車道が見えるはずだ。すると突然、生き物の唸り声が聞こえてきた。地を這うような低い声。周囲を警戒すると、いつの間に現れたのか、僕の前方に大きな犬がこちらを向いて佇んでいた。その大きさと外見からして最初は大型のハスキーかと思った。後ろ向きに荒々しく伸びた体毛。その毛並みからはライオンを彷彿とさせる王者の風格さえ感じ取れた。その印象から得た力強さがあまりに大きくて神々しかったせいか、僕は見下ろされているような気になってしまった。

 僕は足を止めたまま、スマホをそっとポケットにしまい、この時の為に買っておいた犬用の餌を袋から取り出した。固形のドッグフードだ。これをばら撒き、犬が食べている間に攻撃するつもりだ。そのゆっくりとした動作の間も、犬は猟犬のような鋭い眼差しを僕の瞳に向けていた。

 そして、犬が静かに鳴き声をあげた。街中で耳にする喧しい犬の鳴き声とはぜんぜん違うものだった。まるでオペラ歌手のような残響性のあるその鳴き声は、遠吠え――それで僕は気づくことができた。

 

 あれはハスキーじゃない……狼だ。

 

 

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