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言葉は嘘をつきません

16:カーニバル 3/僕と彼女のカーニバル(加筆修正版)

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16:カーニバル 3

 ジパングを出た僕は一旦自宅に戻り、自室のパソコンをつけた。これまでに得た情報を整理する。

 動物虐待、川原の食害事件、そして神楽の行方不明。僕にはこれらの事件が全て繋がっているように思えてならなかった。位置関係だけをみても、全て一つの街で起きている。偶然にしては近すぎる。無関係と思うほうが不自然だ。

 例えばクロウの同好会が、「狩り場」だとしたら? カニバリズムに関心があるとしても、実際に人肉を食べられる人は限られている。肉の調達や証拠の隠蔽の手間を考えると、そこらの一般人が繰り返し行うのは難しい。特別な社会的地位を持つ存在が関与していても不思議ではない。つまりカニバリズム愛好家は、実際に人肉を食すことのできる「本物」とそれ以外に分けられる。それ以外とは、食べたいが食べるまでの準備ができない人や、サブカルチャー的にカニバリズムに興味があるだけで、食べる気がない人だ。

 クロウの同好会は運営側に「本物」がいて、「興味があるだけの人」を誘っているとは考えられないだろうか。今回の場合、カグラとハナコという初参加の二人は獲物となるわけだ。いや、少なくとも神楽は「食べる気がある方」だから、勧誘を受けているかもしれない。

 

 神楽が写メールで送ってくれた動物死骸の写真をパソコンに転送して、死骸の位置関係を調べることにした。彼女の携帯電話は今年の春に出たばかりの最新機種だ。それならGPS機能が搭載されているだろう。写真には位置情報などの情報が画像データーに含まれるはず。もしかしたら犯人や会場の手がかりが見つかるかもしれない。

 写真を解析ツールに放り込んで位置情報を抽出する。送られた写メールは全部で10通。地図上に10個の点が表示された。しかし新しい発見は得られなかった。これがドラマや映画なら、点を線で結ぶと交差した箇所や中心に何かがあるんだけど、点同士を繋げてみても、特にこれといった特徴は見受けられなかった。

 食害事件のあった川原と、キツネの死体を見つけた場所にも印をつけた。でも印が増えただけだった。線同士を結んでもなにかの形になるわけじゃないし、線が交差した箇所も、意味深な場所というわけでもなさそうだった。

 デートの日に自販機で見つけた猫の死骸は、調べてみると小さな記事が顛末を伝えていた。犯人は近所に住む中学生のグループで、自販機の利用者を脅かすつもりで、野良猫の子供をあの中に入れたらしい。こっちの事件とは無関係だった。

 だんだん自分がマヌケに思えてきた。何をやってるんだ僕は。そもそも彼女が見つけた死骸の場所が全てとは限らないじゃないか。

 

 キーボードやマウスを操作する手が止まり、背もたれの軋む音が部屋に響いた。どれだけ考えても、死骸の位置から進展は得られそうになかった。

 

 

   ◇ ◇

 

 コーヒーを淹れて自室に運んだ。

 僕が持っている情報はクロウからのメールだけ。しかし文面から相手の素性や会場の場所を特定することはできそうにない。シパングの周辺は人通りも少ない。無駄足覚悟で聞き込みをしたところで、まず目撃者がいないだろう。

 彼女は今どうしているのだろうか。もうバラバラにされて、サラダの具材と化しているかもしれない。生きていたとしても、明かりもなにもない地下牢のような暗い部屋に監禁されているかもしれない。もし犯人の中に男がいたら、食われる前に性的な暴行を受けているかもしれない。

 神楽が今助けを求めている状態にあるとしても、僕にはどうすることもできない。居場所すらわからないのだ。

 

 彼女からの最後の連絡となったあの黒い画像のメールを開く。これはどういう意味なんだ。教えてくれ、神楽……。

 この画像がなにかのヒントだとしたら、ここからなにを連想するべきだろうか。

 黒い画像を送りたくなる理由ってなんだ?

 今の自分の気持ち?

 真っ黒、漆黒、闇――

 ここで僕はハッと気が付いた。

 これは黒一色の画像じゃない。真っ暗闇を写した写メールなんだ!

 

 僕は焦りながら黒い画像の位置情報を解析した。

 画像の位置情報は、神楽の住む町の、とある建物を指していた。調べるとそこは、何年も前から廃病院となっている建物だった。

  彼女と出会ってから世にも奇妙な出来事が続いた。けど流石に、神楽が事件に巻き込まれたなんて、こんな馬鹿げた推理が現実に起こるわけがないと思っていた。でも地図に廃病院が表示されたことで、妄想は確信に変わった。

 神楽は監禁されている。犯人は川原で起きた食害事件の犯人だ。もう、疑わない。

 僕は家を飛び出して自転車で駅に向かった。

 

 神楽の街に着いてすぐタクシーを捕まえて、廃病院の近くにある公園まで乗せてもらった。公園までにしたのは、後で事件が公になった時に「廃病院まで乗せて行った若者がいる」なんて証言をされたら困るからだ。

 

 

   ◇ ◇

 

 病院は学校の校舎ほどもある三階建ての大きな建物だった。正門には立入禁止のプレートに酷く錆びた有刺鉄線が巻かれている。ここから敷地内を見渡しただけでも、スプレーの落書き、散乱したゴミ、割れた窓ガラス。どこからどう見ても廃墟である。

 周囲を見渡してひと気がないことを確認してから、門塀をよじ登って敷地内に足を踏み入れた。正面玄関には木の板が打ちつけられていたが、外壁の割れた窓ガラスから手を突っ込んで鍵を開け、その窓からなんなく進入することができた。

 

 廊下の壁や床はぼろぼろで、そこら中に何かの木材や破損した什器などが散乱していた。

 とりあえず勘で廊下を歩き進んだ。この広い建物のどこかにきっと、神楽がいる。僕はそう確信している。もしかしたら犯人も、今ここにいるのかもしれない。

 試しに神楽の携帯を鳴らしてみると、繋がらないことを知らせる自動音声が再生された。バッテリーが切れたのか、今は電波が届かないところにいるのか――それか、犯人に取り上げられて、破壊されたか。

 神楽は暗いところにいる。そのイメージが自然と地下へ足を向かわせた。もし地下にいるなら電波は届かないだろう。最後にメールを送った時は地上で、その後、監禁場所を地下に移された可能性もある。メールが一通しか来ていない事との辻褄も合う。

 

 階段踊り場の外壁に掲げられていた院内マップをみると、この病院は地上3階、地下1階の建物であることがわかった。

 地下にはいくつかの診療室の他、霊安室や美容院、喫茶店があったらしい。もし犯人が人食いを目的としてこの建物を拠点にしているなら、食べる場所は喫茶店にするのではないかと思った。なんとなくだが、僕ならそうする。

 リュックから懐中電灯を取り出して階段を下りた。微かに香ばしさを覚える調理臭が鼻をついた。奥に進むにつれてその臭いは強まっていった。

 

 地下1階を歩き進む。美容院と売店の跡地を横目に見ながら奥にある喫茶店に向かった。警戒心を最大限に高めて、ポケットからナイフを取り出す。犯人と出くわすかもしれない。

 喫茶店店内を懐中電灯でそっと照らす。がらんとした店内だったが、カウンターや厨房の原型は残っていた。室内の中央にはテーブルと椅子がニ脚だけ不自然に残されていた。その上にはガスコンロにフライパン、あと蛍光灯タイプのランタンが置かれている。

 罠かもしれないので周囲を警戒しながらそっと近づく。テーブルには食器や塩、コショウといった調味料まで置いてあった。食器やフライパンには使用した形跡があった。誰かがここで〝なにか〟を調理し、食べたのだ。

 もう片方の椅子の上には、人の肘から指先までの部位だけが置かれていた。他の部位は見当たらない。太さからみて、この腕の本体は小学生か中学生くらいだろう。日焼けしていることから、彼女のものではないことがわかった。

 

 店内を調べ終えた僕は霊安室に向かった。そこなら解剖室と隣接しているから、食糧を切り分けたりする時、都合がいいだろうと思えた。

 霊安室は通路の奥で、ひっそりと口を開けていた。

 僕はそこで、横たわる神楽を見つけた。

 

 

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