第2話 ≪ 異変 ≫ 夜行バスの人々(なろう版)


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第2話 << 異変 >>

 十二月十六日 午後一時三十三分

 バスは静岡県にある『竜瓜《りゅうその》サービスエリア』に到着した。ほぼ予定通りの時刻だった。『竜瓜山』という山中に位置するこのサービスエリアは、百台以上収容可能な駐車場の向こうに、森山の自然を見渡すことができる。

 何人かの乗客たちが、トイレ休憩や土産の買い足しの為にバスを降りた。この時、運転手もトイレの為にバスを降りたことを、前方座席に座っている乗客が目に留めている。
   

 異変が起きたのは、それからしばらくした後だった。

 

「……もう、休憩時間とっくに過ぎてますよね?」

「ちっ……まだかよぉ」

「……運転手さん、どこ行っちゃったんでしょうね」

 車内の騒がしさで顕示も目を覚ました。咄嗟に聞き耳を立て、様子がおかしいことにもすぐに気がつけた。どうやら、運転手が戻って来ないようだ。

 乗客たちの会話から、都合のいい言葉を拾うことができ、大体の状況はつかむことができた。カーテンをめくって外をみると、オレンジ色の明かりの下に、無数の乗用車やバスがみえた。その列の向こうに大きな建物もみえる。

 時刻はもうすぐ二時になろうとしていた。時間からみて、ここは一回目の休憩ポイントになったサービスエリアだろう。

 

 名古屋に着いたら、昼の十二時頃に友人の高月《たかつき》と会う約束をしていた。といっても、名古屋到着予定時刻は朝の六時。バスを降りたら漫画喫茶か適当なところで時間を潰すつもりだった。だから、四、五時間程度なら遅延しても予定に支障はないのだが、面倒なことに巻き込まれてしまったと思うと、ため息がもれてしまった。

 誰かバス会社に連絡していないのか。こういう場合、代行の運転手かバスが来てくれるのだろうか。仮にそうなったとしても、すぐにここまで来れるとは考えにくい。遅延した分は会社が保障してくれるんだろうか。

 そんなことを考えていたら、急に、強烈な違和感が走った。反射的に車内をざっと見渡す。自分がなにをみつけたのか、顕示は考えた。

そして、出発時よりも空席が目立つことに気がついた。出発時、座席は半分以上埋まっていたと思うが、今はざっとみても、十五人くらいしか姿がみえない。十人程、人が足らないのだ。

 反対側の席では、絵描き女が鞄に上半身を預けるようにして寝息をたてていた。その姿はまるで、丸まった猫のようだった。

 

 後部座席の方から足音が聞こえて、角刈りの中年男と、七三分けで眼鏡をかけた、若い細身の男が乗車口の方に歩いて行った。コートの下に背広を着ていることから、二人はどこかの会社員で、関係は上司と部下のようにみえた。

 二人はそのまま乗車口からバスを降りていった。外の様子を見に行ったのだろう。

 顕示もカーテンをめくり、外の様子を今一度確認しようとした、その時だった

「あの……」

 その声に振り返ると、絵描き女が通路に立っていた。自分の方を向

いている。

「なにか、あったんですか?」

 すました顔で顕示は答えた。

「運転手が戻ってこないらしいよ」

「え……どうしてですか?」

「さぁね。あと、もしかしたら乗客も何人か戻って来ていない」

「それって…………どうなんでしょうか」

 女は目をキョロキョロとさせて、落ち着きのない様子だった。そのまま顕示の隣の席に座って、一人で考えごとを始めた。

 顕示は隣に座った絵描き女のことより、この場の異常性に意識が向いていた。戻らない運転手と乗客――気がかりはそれだけじゃなかった。深夜とはいえサービスエリアなのだから、もっと車の出入りや人の姿があってもいいだろうに、一向に動くものがみえないのだ。

 

「……まるで、人がいなくなったみたい」

 

 女も外を眺めながら、独り言のように言った。

 それは、顕示も密かに思っていた可能性の一つだった。

 

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