第3話 ≪ 桑部と向坂 ≫ 夜行バスの人々(なろう版)


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「ここ……誰もいないんでしょうか……」

「……んな馬鹿なことあるかよ」

 向坂《さきさか》の言葉に、桑部《くわべ》は否定を返したが、この状況には確かな疑いを持つことができた。

 桑部と向坂は、しんと静まり返った土産売り場を通路からみていた。向坂は初めてだったが、桑部は仕事の都合で何度も夜行バスを利用したことがあった。深夜でも、人のいないサービスエリアなんてありえないことがわかる。だから駐車場を横断している時から、人の気配がないことに違和感を覚えていた。そして中に入ってみれば、客はおろか店員の姿すらみえないし、物音一つ聞こえない。それでも、電気はついている。

 

 辺りを見回しながら通路を歩き、奥にみえたレストランの方まで足を進めた。そこにも誰もいなかった。

 隅に置かれた大きな液晶テレビが黒色の画面を映していた。向坂はテレビ台の上にあったリモコンをつかみ、試しにチャンネルをかえてみたが、どのチャンネルも黒画面を映すだけだった。

 厨房やカウンターに視線を運んだ桑部は、まだ片付けられていないトレイや食器を返却口にみつけた。ついさっきまで、ここには人がいたことを確信する。

「……向坂、とりあえずバス会社に電話して、どうなっているのか確認しろ。俺は会社に電話する」

「は、はい」

 二人は携帯電話を取り出した。向坂は携帯からネットに繋ぎ、バス会社の電話番号を調べる。桑部は携帯のメモリから本社にコールした。

 人材派遣会社に勤める二人の会社は、深夜業務の依頼にも対応する為、二十四時間稼働している。だからこの時間でも、社内には誰かがいるはずなのだ。しかし、

「……でねぇな…………おーい、誰か出ろ~……」

 桑部が独り言で呼びかけた。無意味なことだと思いながらも、携帯電話の画面をみて、番号やアンテナ本数を確認する。最悪の場合、明日大阪の支社で開かれる打ち合わせに間に合わないかもしれない。だからなんとかして、会社に状況を伝えたかった。

 向坂もバス会社のホームページから電話番号をみつけてコールした。しかし、

「あれ……時間外?」

 自動アナウンスがそう告げた。

「なんだよ、夜行バス走らせてる会社のくせに」

 向坂は画面を戻して公式ホームページを見直す。問合せ番号の応対時間は朝の十時から夜の十時までのようだ。たしかに、時間外だった。

 首をひねる向坂に、パチンと携帯電話を閉じた桑部が言った。

「違うだろ。緊急連絡先だ。メールみてねぇのか」

「あっ、そういえば……」

 向坂はそう言いながらバス会社の乗車確認メールを開き、文面から緊急連絡先を拾い出した。

「かけます」向坂が言った。

「おう、俺も別のとこかけてみるわ」

 桑部は夜勤で社内にいるはずの、同僚の携帯に電話をかけた。

「…………」

「…………」

 

 二人の沈黙が続いた。

 

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