発達障害考察ブログ HyogoKurumi.Scribble

言葉は嘘をつきません

第5話 ≪ 外の情報 ≫ 夜行バスの人々(なろう版)

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前話 第4話 ≪ 自己紹介 ≫ 夜行バスの人々(なろう版)

 

第5話 ≪ 外の情報 ≫

 乗客のほとんどは頻りにカーテンを開けて外をみたり、携帯電話でどこかに電話をかけていた。寝ていた者も皆目を覚まし、他人同士の会話も始まった。

「そちらも、誰もでないんですか?」 

「ええ、トイレに行った夫が戻ってこないんです」

「……なにがあったんです?」

「運転手が戻ってこないんですよ」

「ちょっとこれやばくね~?」

「え~、なんかこわ~い…………」

 

 顕示は聞き耳をたて、全ての声を拾い集めていた。できれば海外に電話をかけた者の情報を得たかったが、そんな人はいないようだった。

 すると、ゴンゴンと乗車口をあがる足音が聞こえ、背広の二人がバスに戻ってきた。

 桑部と向坂は、車内の様子を一目し、状況はなにも変わっていないことを察した。もしかしたら入れ違いで運転手が戻っている可能性ももっていたが、そんな期待もどこかに消え去ってしまった。

 二人は乗客たちの視線に捕らえられた。自分たちが外の情報を持って帰ってきたことは明白だ。なにか言わないといけないだろう。しかし、どう伝えればいいものか、へたな伝え方をすればパニックになるかもしれない。

 桑部は最善策を考えながら車内を見回す。そして口を開いた。

「……えー、ここのサービスエリア、無人でした」

 その口調は「大したことないですよ」と言わんばかりの、穏やかなトーンだった。事実を平然と伝える、それが桑部の選択だった。実際、まだなにが起きたのかはわからないし、それが悪いことだとは限らない。しかし、車内は水を打ったかのように静まり返ってしまった。

 ニット帽をかぶった、若い女が立ち上がった。

「あの、一人も? お店の人もいなかったんですか?」

「はい、誰もいませんでした」

 桑部は先と同じように、落ち着いた口調で答えたが、女は言葉を失ったように、座席に腰を落とした。

 今度は迷彩服を着た若者が言った。

「自分、バス会社の緊急連絡先に電話したんですけど、誰も電話にでないんですよ。他の人も電話したんですけど、誰とも通話ができないんです。コール音が鳴るだけで」

 向坂が答えた。

「私たちも、あっちで電話は試したんですが、誰もでませんでした」

 またニット帽の女が、今度は少し慌てたように、周り見渡しながら言った。

「てゆうか、今どこにかけても誰も電話にでないですよね? 誰か通話できた人いますか?」

 その言葉に、誰も返事はできなかった。

 桑部はパニックを避けることを念頭に、現実的な推測を言うことにした。

「……私もー、詳しくないので、恐らくなんですが。この辺りをカバーしている基地局のアンテナかなにかが、トラブルを起こしたんですよ。だから電話してもコールが鳴るだけで、相手の電話は鳴ってないんですよ、きっと」

 

 ……そうなのか?

 ……基地局のトラブルで、そんなことになるのか? 

 

 あまりに頼りない推測が、疑惑の念だけを産み落とした。

 それがなんの解決にもならないことは桑部にもわかっていた。ただ、今は言葉を繋げていくしか手がなかった。自分と向坂の言葉一つで、混乱が起きてしまうかもしれない。かといって、言葉を計算して出せばいつかボロがでてしまうように思えた。粗をつつかれて、それに答えられなければ悪い方向にいってしまう、そんな気がしてならなかった。「大丈夫ですよ」なんて安易な言葉は苛立ちを増幅させるだけだ。「大きな災害に巻き込まれたのかも」なんて不安を煽るような言葉はもっと駄目だ。だから〝まずは事実を客観的に共有すること〟。それだけを叶えることにしたのだ。

 また迷彩服の男が言った。

「……公衆電話はなかったんですか?」

 乗客の何名かがその存在を思い出す。

 質問には向坂が答えた。

「公衆電話はあったんですが……携帯から電話した時と同じで、コールが鳴るだけでした」

 あの後、携帯電話からの通話を諦めた二人は、建物内にあった公衆電話からも通話を試みていた。しかし、結果は同じだった。

 桑部が念を押すように言った。

「試しに緊急ボタンも押してみたんですけどね、やっぱり駄目でした。電話回線の調子も悪いみたいです」

 強引に電話のトラブルのせいにしたがっているように感じた者は少なくなかった。しかし、それを否定できる知識は、誰も持ち合わせていなかった。顕示も、男の言った推測には疑問を持っていた。だが、結果的に車内が静かになったので、その功績を密やかに称えていた。

 すると、一人の男がのっそりと立ち上がった。

「…………なんで人がいねぇんだよ」

 乗客たちの気持ちを代弁したのは、作業着風の格好をした顎髭の男だった。電話の件は故障やトラブルで、百歩譲って説明がつくとしても、人がいない理由だけはさっぱりわからない。

 桑部が言葉を返した。

「さぁ……私らにも理由はわかりませんが、ここにいた人は皆、別の場所に移動したようですね」

 

 ……別の場所に移動?

 ……なんで? どうして?

 

 沈黙が、拭えない疑惑を悪戯に飛躍させる。

 

 ……なにか大きな事件が? 災害?

 ……避難? 自分たちだけ取り残された?

 ……ここって安全なの?

 

 頭の中に創られる映画のようなストーリー。

 それは冷静に妄想と認識できても、疑惑だけがしぶとく脳裏に絡みつく。

 その不安定な空気を察した向坂が言った

「と、とりあえず皆さん……一先ず、建物のほうに移動しませんか?」

 視線が集まったことを確認し、向坂は言葉を続けた。

「あっちは空調も効いていますし、電気もついてます。ここよりはマシかと思いますよ。ここに留まる必要もないと思いますし」

 桑部は話を聞きながらうんうんと頷いた。

「あぁ、それがいいな」

 特に賛同の声はなかったが、一人、また一人と荷物を整理して移動の準備を始めた。

「……あ、でも……誰か車内に残った方がいいかもしれませんね。もしかしたら、誰が戻ってくるかもしれませんし」

 向坂は、念のためバスを空にしないほうがいいと考えた。

 その言葉に、乗客たちは顔を見合わせる。誰が残るんだと。

「それなら、張り紙でも残しておけばいいんじゃないか?」

 桑部がそう返事した時、一人の男が手を上げていた。

「……残るよ」

 咲は突然の顕示の行動に戸惑うも、後についで手を上げた。

「わ、私も残ります」

 残る必要は見当たらなかったが、残ってくれた方が安心感があると桑部は考えた。

「冷えると思うけど、大丈夫ですか?」

 エンジンが止められたと同時に空調も止まり、車内の温度は少しずつ下がっていた。

「問題ない」

 その無愛想な返事に、反射的に「まずい」と思った咲は言葉を重ねた。

「……だ、大丈夫です。ブランケットもありますし」

 桑部は笑顔で答えた。

「じゃあ、こっちは任せますね」

 顕示と咲を残して、乗客たちはバスを降りていった。

 

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