発達障害考察ブログ HyogoKurumi.Scribble

言葉は嘘をつきません

第7話 ≪ 安全性 ≫ 夜行バスの人々(なろう版)

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前話 第6話 ≪ 進展 ≫ 夜行バスの人々(なろう版)

 

第7話 ≪ 安全性 ≫

 桑部と向坂を除く他の乗客たちは、ここに来るまで半信半疑だったが、本当に人がいないことに戸惑いを隠せなかった。なにが起きたのか、ここにいたはずの人たちはどこへ行ってしまったか、そしてなぜ、自分たちだけおいてかれたのか。納得のいくストーリーが思い浮かばなかった。

 レストランではしばらくの間、テーブル席に着いた乗客たちの間で、沈黙と議論が交互に繰り返されていた。そして、何度目かの沈黙の時、ニット帽の女が誰に対してでもなく言った。

「……ここって、安全なんですかね」

 その声を聞いた桑部が、さらりと答えた。

「ま、大丈夫でしょう。少なくとも、今はなにも起きてませんし」

 確かに、ここは人がいないというだけで、なんの変哲もないただのサービスエリアだ。でも、でも……ニット帽の女はその先の言葉をだそうとしたが、場の空気が躊躇させた。推測や予想を並べ立てても、不安を煽るだけにしか思えない。なにより、注目され、答えを求められたところで、問題の解決に繋がる提案ができるわけでもなかった。 

 その時、カチンという音が聞こえた。

 乗客の視線がその方向、テレビと迷彩服の男に集まった。男はテレビの下部にあるボタンをカチカチと押して、チャンネルを変えようとしていた。

「……おかしいな。この時間帯なら、まだなにかやってるはずなのに」

 迷彩服の男はテレビの裏側を調べ始めた。ケーブル類はきちんとまとめられ、然るべき配線が整えられているようにみえる。

 向坂と桑部が口を揃えて言った。

「どのチャンネルも、なにも映らないですよ」

「……たぶん、壊れてるんだよ」

 別段、機械に詳しいわけでもなかった迷彩服の男に、その真意を確かめる術はなかった。これ以上どうしようもないので、仕方なく傍の席に座った。

 休憩中にトイレに行った夫の戻りを待つ主婦が、不安そうに口を開いた。

「……これからどうするんですか?」

 迷彩服の男が言った。

「まず、なにが起きたのかを確かめたほうがいいと思うんですが、どうでしょう?」

 ニット帽の女はうんうんと頷いた。

 作業着の男が立ち上がった。

「じゃあ、みんなでここいらの様子を探るのはどうだい。なにかわかるかもしれねぇし」

 男の提案に続いて、向坂が答えた。

「さっき二人で外にでたとき、一応、外の様子は見回ったんです。トイレの辺りも、向こうにあった喫煙所のほうも。でも、なにもなかったです」

 桑部が補足した。

「まぁ、夜だったんで。なにか見落としはあるかもしれませんが……外はとても冷えますし、もうこんな時間ですから。出歩くのは危ないと思いますよ」

 作業着の男は小さな舌打ちをした後、頭をぼりぼりと掻きながら言葉を吐いた。

「でもよぉ、俺は朝から現場で仕事があるんだ。こんなところにいつまでもいるわけにはいかねーんだよ」

 男はだいぶ苛立っているようだった。

「いえ、お気持ちはわかります。私も仕事で部下とバスに乗りましたから」

 桑部は一呼吸おいてから、全員に視線を配りながら言った。

「まだなにが起きたかはまだわかりません。恐らくここでなにかの事故があって、我々もそれに巻き込まれたのだろうと私は思っています。だから――」

「え? 事故?」と、金髪の若い女が桑部の言葉を遮った。

 桑部は女のほうをみて、笑顔で答えた。

「……だから、落ち着きましょうということです」

 そして、また視線を全体に戻した。

「私たちのように、明日仕事や用事を控えている人もいると思いますが、現状は外部と連絡も出来ない状態です。こういう時は、慌てて動いても二次災害に繋がるだけだと思います」

「なにより、皆さんお疲れだと思います」

「ですので、考えるのも行動するのも、明日にしましょう」

「とりあえず今日のところはここで休みませんか?」

 何名かいる年配の人にも聞き取りやすいよう、桑部は区切りながら話した。

「そーそー。てゆうか眠いし」

 先の金髪女を連れた金髪の若い男はそう言うと、大あくびをした。

 

 しばしの沈黙。桑部の提案に、誰も異論はないようだった。

「じゃあ、バスからブランケット持ってきましょうか。布団代わりに使えますよ」

 その向坂の提案は、桑部も言おう思っていたことだった。

「……そうだな。あ、バスに残っているあのカップルも呼んであげよう」

 桑部はまだ名を知らないが、そのカップルとは顕示と咲のことだった。

 そして立ち上がりながら言った。

「バスにブランケットを取りに行くので、あと一人か二人、手を貸してください」

 

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