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言葉は嘘をつきません

第11話 ≪ 冗談 ≫ 夜行バスの人々(なろう版)

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前話 第10話 ≪ 決別 ≫ 夜行バスの人々(なろう版)

 

第11話 ≪ 冗談 ≫

 桑部と向坂は、建物の表側を見回りながら、そのまま外壁に沿って裏手にまでやってきた。

 もうここに人は残っていないと諦めていたが、厨房の件が〝まだ人が残っている可能性〟を臭わせた。どんなに急いでいたとしても、火をつけっぱなしにしたまま建物から離れるとは考えにくい。やっぱり誰か残っている、そう考えた方が自然だ。

 そうして二人は事務室に続く通路のドアまで来た。『関係者以外立ち入り禁止』と書かれたプレートがあることから、これが従業員用の出入口だということがわかる。

「勝手に入っちゃっていいんですか?」

「お前なぁ、こんな時になに言ってんだ。いいんだよ、こういう時はっ」

 向坂のとぼけた言葉に少し苛立ちつつ、ゆっくりとドアを開けた。

 明かりはついているが、やはり人の気配は感じられない。

「やっぱり誰もいないんですかね」

「……いや、待て」

 桑部の視線があるものを捉えた。

 それは、足跡だった。

「足跡……」

 雪と土で、若干汚れた足跡が奥に向かって続いている。

「ほら、誰かいるかもしれないぞ」

 その足跡は途中からぐちゃぐちゃになって消えていた。が、自分たちの足跡と見比べると、ついさっき誰かがここを通ったように思わせる。

 人がいるかもしれない、でも、もしそいつが危ない奴だったら――そう思うと、向坂は急に怖くなってしまった。

「桑部さん、やっぱり戻りませんか?」

「なんで?」

「危ない奴だったらどうするんですか」

「またお前は……心配しすぎだぞ」

 桑部は事務室のドアノブを掴んだ。

「……ごめんくださーい」

 そう控えめに言いながら、頭だけを部屋に入れ、じろり……またじろりと室内に目を光らせた。

 

 誰もいない。

 本当にいないのか?

 人がいるなら驚いてでてきそうなもの……

 隠れているんじゃないのか?

 でも誰かいたとして、そいつは誰で、どうして隠れる必要がある?

 つまりそんな奴はいないということ……

 考えすぎか……?

 さっきの足跡の主だってもうこの場から離れているのかもしれない……

 それ以前に、ずっと前のものだったかもしれない……

 

 桑部はあれこれ考えたが、これ以上あてずっぽうに行動する所を、部下にみられたくなかった。それに、時刻は三時半を回ろうとしていた。明日の為に、体力を残すことを考えたほうがいいだろう。

「…………戻るか」

 桑部と向坂は、そのまま来た道を戻ることにした。

 

 強まる風の音が吹雪を予感させた。顔面に当たる雪がちくちくとした痛みを伝える。

「明日の仕事……もう無理ですよね……」

 そうぼやくように言った向坂だが、万一スケジュールがずれたら、クリスマスに予定していた彼女とのデートもおじゃんになってしまうかもしれない。それが一番憂鬱にさせた理由だった。

「まぁ、そうなるだろうな……」

 結局、会社と連絡はとれていないし、このまま雪が強まれば高速道路は通行止めになるかもしれない。

 会社のことも気になるが、桑部はだんだん、それどころではないと思うようになってきた。電話に誰もでないこと、ここに人がいないこと。全てがありえない。新聞には毎日目を通しているが、こんな状況にまで陥った事件や事故も聞いたことがなかった。

「……お前、この状況どう思う?」

「いやー、全然わかんないっすよ……でも……」

「でもなんだよ?」

「正直、まるで人が消えちゃったみたいだなって」

「はぁ? くっく……なぁに馬鹿なことを言ってんだ。お前、アニメとか映画のみすぎじゃねーのか?」

「冗談ですよ。てか僕は全然アニメみてないっすよ」

 にたにたと嘲笑する桑部に、向坂も言い返した。

「じゃあ、桑部さんはどう思ってるんですか?」

「……うーん、そうだなぁ……この状況からみて、ありえそうな事態を想定すれば……」

「はい」

「ウイルスだな」

「え? ウイルス?」

「あぁ、未知の病原菌だ。海外でたまにあるだろ? つまりここらは隔離されたんだ。俺たちは不運にも取り残されたんだよ。電話の件だって報道規制かなにかの影響だろう。政府がお粗末な対応をしていて、あちこち混乱してるんだ」

 それこそアニメや映画のような話だと向坂は思った。

「あ~、じゃあ僕らもう、感染してるんですね」

「そういう事になるな」

「いや、それまじ洒落になってないっすよー」

「はっはっは、冗談だよ。ほんとだったらとっくに死んでるだろ。体中の穴という穴から血を噴出すとかな」

 あははと一緒に笑った向坂だったが、桑部の話が妙にリアリティで、内心はちっとも面白くなかった。

「……まぁ、明日になればなにかわかるさ。今日のところは休もう……仕事のことも忘れてな」

「そうっすね」

 本当に、なにかの冗談であってほしい。レストランに戻り、敷かれたブランケットに就いた桑部はそう思いながら目を閉じた。

 向坂は寝る前に恋人のゆかりにメールを打った。時間的に寝ているだろうが、念の為、無事を伝えておこうと思った。

 

『ゆかりんへ(^o^)/ いま静岡県のサービスエリアなんだけど、なんか変なことに巻き込まれちゃって、ここ誰もいません(>_<) 僕の乗ったバスの人だけ取り残されたみたいです。今日はここで寝ることになりました。明日起きたら電話します。おやすみ♪』

 

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