発達障害考察ブログ HyogoKurumi.Scribble

言葉は嘘をつきません

第12話 ≪ 12/16 01:40:00 ≫ 夜行バスの人々(なろう版)

スポンサーリンク

f:id:hyogokurumi:20190129192630j:plain

前話 第11話 ≪ 冗談 ≫ 夜行バスの人々(なろう版)

 

第12話 ≪ 12/16 01:40:00 ≫

 ほんの数秒の差だった。なにかが一つ違っていただけで、顕示たちは桑部たちと、通路で鉢合わせしていてもおかしくはなかったのだ。

「……もう大丈夫」

「はぁ、びっくりした」

 顕示と咲は桑部たちの声が聞こえた瞬間、咄嗟に体を伏せて机の下に隠れていた。もし部屋の中にまで入られていたら、確実にみつかっていただろう。

「運がよかったな」

「みつかっていたら、どうするつもりだったんですか?」

「考えてない。その時はその時で、適当に理由を考えるさ」

 この人なら、本当にそうだったと思えてしまいそうな理由を瞬時に作って、いとも簡単にやりすごしてしまうだろうと咲は思った。

 落ち着いたところで、顕示は静かにドアを開け、右、左……と人気がないのを確認してから通路にでる。

 そして、『電源管理室』の鍵を回し、ゆっくりとドアを開けて室内を覗き込んだ。
 
 規則的に並ぶ赤や青、橙色のランプは電源系統の配電盤だろうか。部屋の隅には山積みのダンボール、消火器、乱雑に物が置かれたステンレス棚があった。そして所々錆びついたオフィスデスクには一台のパソコンが置かれていた。モニターの放つ光がぼんやりと室内を照らしている。

 顕示は手探りに明かりのスイッチを入れた。パッと明るくなった室内は、どこの部屋よりもひんやりとしていた。

「本当に、ありましたね……」

 顕示の予想通りだった。パソコンのモニターにはサービスエリアの映像が映されていた。画面は六分割されていて、上段は『1』『2』『3』、下段には『4』『5』『6』と、各画面の左上辺りに番号が表示されている。各映像の右下には赤い点がついていて、今も録画中であることがわかる。

「3番のカメラは、レストランですよね」

 そのカメラには横になって寝ている乗客たちの様子が映っていた。明かりがついたままで眠りにくいだろうと顕示は思う。配電盤を操作すれば電気を消してあげることもできるだろうが、勿論、そんなことはしない。

「そうだな。1番はサービスエリアの出入口付近、2番は売店とレジカウンター……下段のカメラは屋外担当ってとこか」

 顕示は椅子に座り、マウスとキーボードを手に取った。その動作をみて咲が言った。

「わかるんですか? わたし、こういうものはさっぱりで……」

「こういうものは誰にでも操作できるようになっているはずだよ」

 顕示はそう言うが、パソコンに触れたことすらない自分には到底無理だと咲は思った。

 

 顕示はまず、カメラの映像ウィンドウの上でマウスをクリックし、操作パネルが表示されることを確認した。そこから『映像管理』を開くと、更に日付と時刻設定、カメラナンバーを指定する大きめのパネルが表示された。

 試しに適当な時間と『3番カメラ』を指定して『再生』を押してみる。すると、賑やかなレストランの様子が映しだされた。

「おっ」思わず声がでた。

「え? もう表示されたんですか?」

「うん。これは昨日の、夕方……5時頃の映像」

「すごーい……」

 

 映像にはレストランで食事をする人たちの様子が映っている。

 今度は複数のカメラナンバーにチェックを入れて再生してみると、画面が分割されて表示された。わかりやすいインターフェイスで助かった、どうやら操作は合っているようだ。

「もうわかった……じゃあ、今日の午前一時四十分の辺りからみてみようか」

「はい、いよいよですね」

 顕示は全てのカメラナンバーにチェックを入れ、日付と時刻を指定した。

 

 ……2011/12/16 01:40:00

 ……再生


 建物から出入する人

 どこかへ向かって歩く人

 商品を物色する人

 レストラン食事をする人

 駐車場を往来する車……

 

 なんの異常もない。

 

 一分が経過――まだなにも……

 二分経過――まだまだ、なにも変化はない……

 

 そして四分と数十秒が経過した、その時だった。

 

「……ん?」

「あれ?」

 二人は顔を見合わせてから、視線を映像に戻した。

 レストランで食事をしていた男も、商品を物色していた客も、店員も……いつの間にか、全ての映像から人がいなくなっていた。各画面に目を走らせるが、もうどこにも人の姿はない。

「もう一度、みてみようか」

「うん……」

 消える瞬間を見逃した、きっと人が映っていないカメラを注視していた時だったんだ、そうに違いない――顕示はそう思いながら一旦画面を戻し、今度は『四十二分』から再生した。

 顕示は確実に人が映っていた3番カメラのレストランに注視した。四十三分になってからは瞬きもせず、食事をする男を睨み続けた。

 そして、その瞬間をみた。

 

 人が消えた……

 消えた……

 消滅……

 突然……

 人だけじゃない……

 走ってた車も消えている……

 他には……手に持っていたものは……

 消えた物体の確認をする……

 検証を……音声はないのか……なにか違和感が……

 おかしい……消え方……消滅……

 ……落ち着け、落ち着け……

 処理を一つずつ……消えたのは人だけじゃない……

 音声があれば……そもそも映像の信憑性は……

 合成の可能性も……まずそれを見極めろ……

 映像の解析は……自分には出来ない……

 誰か……必要ない……

 データのコピーを……

 すぐできることから……

 

 考えるな動け――

 

「顕示さん?」

 ぶつぶつと言いながら、なにか考え事をしている顕示だった。視線はモニターを向いている。けれども、瞳には光が感じられない。まるで〝頭の中〟を〝観てる〟ような――それが咲の受けた印象だった。

「……あぁ」

 顕示は咲の声で我に返った。静かに、深く息を吐いて、体内の酸素を入れ替える。

「……大丈夫だよ」 

 顕示は視覚から頭を切り替えることにした。椅子にもたれ、画面から目を外して咲をみる。

「咲、どう思う?」

「どうって、えっと……急に消えたとしか……」

「だよな」

 そう、急に消えたのだ。煙や光に包まれたわけでもなく、泡になって消えたわけでもない。

 なんの演出もなく、人間がパッと消えたのだ!

「……やらなくちゃいけないこと、考えなくちゃいけないことが沢山ある」

「それならわたしにも、できることがあれば言ってくださいっ」

 迫るように言った咲だが、その目や表情は疲労も訴えていた。自分はまだ動けるが、

「あぁ、勿論だ。一緒にやろう。でも今日のところはもう休もう。この映像の細かい検証は明日でいい」

 時刻はもうすぐ四時になろうとしていた。これ以上は、確実に明日の活動時間を奪うだろう。

「寝るところなんだけど。ここは埃っぽいし寒いから嫌だ。レストランは論外。となるとバスの中が妥当かな」

「いいですよ。荷物もおいたままでしたし」

 そこで咲は思い出した。

「あ……でも、あっちのサービスエリアに行くって話は?」

 そういえばそんなことも決めていたなと、顕示も思い出す。

「……そのことは一旦忘れよう。少なくともこの映像を検証する上では、僕ら……バスの乗客が映っているほうが都合がいいんだ。あっちのサービスエリアには誰もいないかもしれないし」

「そうですね……わかりました」

 厨房の入り口からバスに向かうわけにはいかないので、顕示と咲は

雪の中を歩き、バスに戻ることにした。

 

 外は雪と風の世界だった。荒れ狂う吹雪は視界も音も、全てを飲み込もうとしていた。

 顕示と咲は手を繋ぎ、体を寄せて互いをかばうようにして歩いた。

「……顕示さん」

「なに?」

「ずっと……緒にい…くだ……ね!」

「……え? なんて言った?」

「……ずっと…………もう、なんでもないです!」
「…………」

 やや小声だった咲の言葉は、吹雪が連れ去ってしまった。

 顕示はその欠片を追いかけようとしなかった。

 追えばこの雪が、自分さえもどこかへ連れ去ってしまいそうな気がしたから――

 

次話