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言葉は嘘をつきません

第21話 ≪ パーティー ≫ 夜行バスの人々(なろう版)

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前話 第20話 ≪ 消失の定義2 ≫ 夜行バスの人々(なろう版)

 

第21話 ≪ パーティー ≫

 真っ先に気がつくべきだった。向坂は今までの自身の行動を振り返り、落胆した。いつでも気がつけたことだ。自分が情けなくなる。しかし、気を落としたところでなにかが変わるわけでもない。映像さえみれば、きっと人間消滅の謎を解き明かすことができる。そう思って気を持ち直す。

「なるほど、防犯カメラか! うん、うん……わかった、ちょぃ待って」

 広野に電話を代わってほしいと言われ、仁村は向坂に携帯を渡した。

「はい、向坂です」

『すみません、電池がなくなりそうなので、手短に話します。こっちの建物に防犯カメラがあるのをみつけたんですけど、そっちの建物にもあると思うんです』

「多分、あります。いま駐車場にいるので、戻って確認します」

 十中八九あるだろう。向坂はそう話しながら建物の方に足を向けた。仁村も後をつける。

『ええ、それでなんとかして、映像を確認してほしいんです。こっちの建物には、電源管理室という部屋があって、多分その部屋でみれるんじゃないかと思うんですが。どうしても部屋の鍵がみつからなくて』

 その部屋には心当たりがあった。昨夜、桑部と建物の裏側から中に入った時にみた、一番奥の扉だ。あの部屋にはまだ入っていないし、プレートにそんな名前が書いてあった気がする。

「多分、あの部屋だ……わかりました」

「あとですね」

 向坂は車のことを話したかったが、広野に話を譲った。

「カメラのこと、今のところ、こっちで知っているのは僕と吉岡さんだけなんですけど、桑部さんには僕から話しておきましょうか?」

 向坂は足を止めた。会社にいる時の自分と〝今の自分〟が交錯する――

 

 まず報告、そして桑部の判断を待て……

 いや、報告したところで今の自分にメリットは……

 もし人が消える場面が映っていたら……

 知らないままの方が幸せなことだって……

 だからといって教えないのは…………

 

 落ち着け、なにが映っているかをみてから判断する。それからでも遅くない。

 向坂は判断を固めた。

 

「……なにも映ってないかもしれませんし、一旦、僕らで預かりましょう。後で、僕から話しておきますから」

「わかりました。では」

 向坂は仁村に電話を返した。そして、二人は建物の外壁に沿って、裏手に向かった。

 

 電話の時、広野と吉岡は上り側サービスエリアの事務室にいた。

「どうでした?」

 通話を終えた広野をみて、吉岡が言った。

 広野は携帯の画面をみる。もういつ電池が切れてもおかしくなかった。

「なんとか伝えれました。カメラの件は、向坂さんが自分から伝えるって」

 その配慮が向坂にとって都合が良かったことを二人は知らない。わざわざ確認をとったのは、〝あの人は向坂さんの上司らしい〟ということと、広野が抱く四人の仲間意識が、そう判断させたのだった。

 

 激しい雪風の中、中央分離帯を越えてここまでやってきたが、ここの状態もかわらなかった。人がいたような痕跡があるだけで、人はどこにも見当たらない。建物の構造もほぼ同じであることが、一層の無駄骨感を誘った。収穫といえば、レストランで何気なく天井を見上げた時に、偶然気がついた防犯カメラのみ。それも、あっちにいた時に気がつけたことだった。

 建物の表側は桑部と片岡が探査していた。この状況のことを示すメモかなにかが残されていないかと、あちこちを闇雲にひっくり返していた。しかし、なにもなかった。電話の状態もかわらなかった。ただ、コールが鳴り続けるだけだった。

 屋外にある公衆電話を試し終えた桑部は、足早に建物に戻った。三人を探しながらレストランまで足を進めると、厨房奥のスタッフルームから片岡がでてきた。

「旦那ぁ、こっちはなにもないよ。電話も誰もでやしねぇ」

「こっちも収穫なしでした」

 桑部は、広野と吉岡がいないことに気づく。

「他の二人は?」

「ちょっと前に、裏手の方をみてくるって言って、二人で行っちゃったよ」

「そうですか……一旦、集合しましょうか。片岡さんはここにいて下さい。私が呼んで来ますね」

 丁度その時、厨房の奥から広野と吉岡がでてきた。

 

 桑部の声で、四人は適当なテーブルに腰を下ろした。出発してからまだたったの一時間だ。最長四時間としていたこともあり、時間が余ってしまった気がした。まだ、なにかできることはないだろうか。

 桑部はそう考えながら、広野と吉岡をみながら言った。 

「裏手の方はどうでした?」

「……なにも、なかったです。人はいませんでいたし。引き出しの中とか、結構探したんですけどね」

 建物の裏手にまで足を運んだ目的は、こっそり電話をかける為と、防犯カメラの映像がみれる場所を探す為だった。そして電源管理室に辿り着いたはいいが、扉には鍵がかかっていた。鍵探しのついでに事務室内の探査も行ったが、キーボックスには関係のない鍵が何本かぶらさがっていただけで、室内にも、この事象の説明に繋がるようなものはなにも無かった。
 桑部は無意識に腕を組んで俯いた。落胆の様子を隠せなかった。

 なにか一つでもいいから収穫がほしかった。

「ここも状況変わらずかぁ……」

 すると、片岡が駐車場の方をぼんやりとみながら言った。

「……車なんだけどよぉ、一台くらい動く奴あるんじゃね?」

 どういうことだ? といった様子で、三人は片岡に視線を向けた。

「俺、昔トラック転がしてたことあるけど、こういう所で、鍵差したまま車から降りたことがたまーにあったんだよ」
 三人も駐車場をみる。ざっと見渡しただけでも、十、二十、三十……数え切れない程の車が放置されている。元いたサービスエリアの車の台数も合わせれば、軽く百台は越えているだろう。

「……探してみる価値はあるかもしれませんね。ちなみに、それってどんな時ですか?」

「〝もれそう〟な時とかよ」

 その言葉に、にやけた口元を押さえた吉岡であった。

 

 事務室へと続く裏手の出入口を開け、建物の中に入っていく向坂と仁村――その二人の姿を、顕示と咲は車中から目に留めていた。

「危なかったですね」

「ギリギリセーフってやつだな」

 ほんの数分前まで、自分たちはまだ鍵の合う車を探していたところだった。

 顕示の予想通り、事務室にあったコートの中に、車の鍵はあったのだ。運もよかった。この車にはガソリンもたっぷり入っている。

「あの人たしか、桑部さんの部下の人ですよね。もしかして、監視カメラに気がついたのかも」

「その可能性は十分にあるね。まぁ部屋の鍵は戻してあるし、たぶんみるだろう」

 咲は阿鼻叫喚する乗客たちを想像してしまった。映像をみた部下が桑部に報告し、桑部が乗客たちに伝えた後の光景を。

「あの人たち、どうなっちゃうんでしょうか」

「さぁ……泣きたい奴は泣くだろうし、騒ぎたい奴は騒ぐ。それだけのことさ」

 どこまでも他人を冷たくあしらう顕示。

「……顕示さんは、人のことが嫌いなんですか?」

「別に。僕にとって彼らのような、並列化された人間は同調し難い相手なんだ。それは逆も同じ。僕のような人間は、大多数の人間にとって付き合いづらい生き物らしい。嫌と言うほど思い知ったから、それは僕もわかっている。だから自分から距離をおいてるんだ……その方が、僕も生き易いからね」

「顕示さん……」

「皆が笑うところで笑わない奴、悲しむべきところで悲しめない奴は、ああいうパーティーの中にはいらないのさ」

 顕示はどことなく面倒そうに言った。

 いらないんじゃない、周囲がそう暗にして訴えてくるんだ――咲は沈黙の中で、顕示の言葉に反論した。それでも、彼の過去に共感を意していた。

「さて、どうする? このまま出発することも出来るよ」

 このままここでじっとしている理由はない。

 出発はいつでもいいと思う咲だったが、

「……バスの中に荷物を置いたままなんです」

「あぁ、そっか。てか僕も置いたままだった。仕方ない、取りに行くか」

 二人はそっと車を降りた。

 

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