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言葉は嘘をつきません

第25話 ≪ エピローグ ≫ 夜行バスの人々(なろう版)

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前話 第24話 ≪ 最終話(後編) ≫ 夜行バスの人々(なろう版)

 

第25話 << エピローグ >>

 十二月十七日 十六時三十二分

 愛知県 名古屋某所

 車の走行音も人混みの喧騒もない、静寂に包まれた無人無車の街を走る、一台の車の姿があった。

 それは顕示と咲の乗る車だった。あれから二人は、途中のサービスエリアで一時仮眠を取り、その後、この名古屋まで車を走らせてきたのだ。

「やっぱり、誰もいませんね……」

 人の姿はどこにもない、それはわかりきっていたことだが、街の様子をみて、より現実感が増した咲だった。閉ざされた建物のシャッター、放置された車、そして、普段は身を潜めていた小動物たちがあちこちで好き勝手に活動をしていた。

 車内の空気を入れ替えようと、咲は窓をあけた。すると、仄かに苦味の混ざった臭いが漂ってきた。街中に点在するゴミ置き場を、動物たちが好き勝手に漁っているせいだろう。

 咲は無言で窓を閉めた。その様子を気に留めた顕示が言った。

「どうした?」

「空気を入れ替えようと思ったんですけど、外がちょっと臭って……」

「へぇ。もう荒廃の前兆は始まっているんだな」

「……これから、街はどうなっていくと思いますか?」

「そりゃ、少しずつボロボロになっていくんじゃないかな。メンテする人もいないしね」

「ぜんぶ、ゴミになるんですね」

「そういうことだ。それより、外に出る時は動物に気をつけて。いきなり襲い掛かってくる可能性がある」

 荒廃の兆候が、咲の心に不安の陰りを残した。これから待ち受けているであろう困難に、自分は耐えられるのだろうか。最終的には、原始人のような生活を送ることになる、そんな気がしてならなかった。

「顕示さんは、不安じゃないんですか?」

「この状況? 別に」

 本当になんとも思っていないような言い草だった。

「……でも、電気や水はいつか止まるでしょうし。食べ物だって、いつまでももたないですよね」

「それをどうしていくのか……考えるのが面白いんじゃないか」

「そういうもんですか」

「そのうち慣れるって」

 咲は顕示の言葉に、少し呆れてしまった。

 

 交差点をいくつか越えたところで、車は細い道に入った。繁華街を抜けて、景色は住宅街の中にかわった。

 時折、カーナビに視線を運ぶ顕示。目的地が近いようだ。

「これ、まだ衛星が生きてるってことですね」

「そうだな。そのうち落ちてくるかもね」

「え?」

「冗談だよ。ま、もし落ちてきても、大気圏で燃え尽きるさ」

 はは、と笑みをみせた顕示の様子が、無理に明るく振舞っているように感じられた。さっきもそうだった。似合わないお気楽な返事。

 やっぱり、気になるんだろうと咲は思った。

 高月という、友人のことが。

 

 そして、顕示は一軒の木造アパートの前で車を止めた。

「……ここだ。咲は待ってて。長くはかからないから」

 そう言って顕示は車を降りていった。

 錆付いた鉄製の階段をガンガンと上がり、二階の通路の最奥の部屋、表札に『高月』と書かれた部屋の前で足を止める。この場に来ただけで、顕示は懐かしい気持ちに浸れた。二十歳になった時、一緒に成人祝いをしようと高月に誘われ、一度だけ遊びに来たことがある。

 

 ピンポーン

 チャイムを押す……反応はない。

 ゴンゴン
 ドアを叩く…………やはり反応はなかった。

 

 ドアノブを掴むと、回ってしまった。無用心だなと、顕示は思う。

 ドアを開けると、生ゴミの臭いが鼻をついてきた。

「お邪魔します……っと」 

 臭うわけだ。テーブルの上には食べかけの食事が放置されていた。具材からみて、それは野菜炒めだろうか。どうやら高月は夜食中だったようだ。台所には洗われていない皿が積み上がり、フライパンの上には焦げた魚がのっている。

「……お前も、消えてしまったんだな」

 本当なら、顕示はここで高月に会い、その後、高月の父母が経営するリサイクルショップに赴くはずだった。そこで高月と一緒に、二号店についての話を受けることになっていた。

 顕示はテーブルに腰を下ろし、高月の座っていた方をみた。

 

 なぁ 高月

 東京はすげーところだったぞ

 みんな 小さなことに苦しんで 小さなことに喜んで

 一生懸命考えながら 必死で生きていた……

 俺には馴染めなかったよ

 お前が一緒に仕事をしようって言ってくれた時 本当に嬉しかった……

 お前に ずっと言いたかったことがあったんだ

 言いそびれてたことがな

 お前がいなきゃ俺はあの日に死んでいた

 ありがとう

 それだけ言いにきたんだ

 ……じゃあな またどこかで 会えたら――


 顕示が車を降りてから、十分くらい経っただろうか。

 咲がカーナビをぴこぴこいじっていると、ガチャッと車のドアが開いた。

「お待たせ」

「もう、いいんですか?」

「うん……用事は済んだ」

 顕示はそう返事しながら、車に乗り込んでエンジンをかけた。

 やっぱり、高月はいなかったのだ。

 でも、顕示はどこか吹っ切れたような顔をしていた。

「これから、どこに行きますか?」

 当てのない旅暮らしが始まる。咲はそう予感していた。

「僕はどこでもいいよ。温泉巡りでもしようか?」

 咲はくすっと笑った。でも、正直、どこでもよかったのだ。

「わたしも、どこでもいいですよ」

「ふむ……そういや、咲は名古屋のどこにいくつもりだったの?」

「えっと、大須って所にある商店街とか、ぶらぶらしようかなって思ってたんですけど……」

「よーし、じゃあそこに行こうか!」

「でも、お店は閉まってるんじゃないですか?」

「気にしない。電気はつければいいさ」
 
 車を走らせ、三十分ほどで大須についた二人は、シャッターの下ろされた商店街を、手を繋いで歩いた。

 それは二人にとって、初めてのデートだった。

 

次話(あとがき)